今月の『夏姿女團七』の幕開きには、花道から芸者連中が大勢登場致します。

これは、実に華やかな幕開きですね。歌舞伎ならではです。

この六人の芸者さんたち、もちろん女形さんたちですが、
正直、女優さんたちが芸者の扮装をして登場するより、華やかに感じられます。

なぜかと云うと それが歌舞伎の強みなのですが、やはり動き 台詞回し
捨て台詞の挟み方などを 心得ているせいでしょうね。

女性である事が画面に現れる、映画などとは違い 舞台は 誇張と云うお芝居を
必要といたします。
   
この誇張と云うお芝居が 逆に女優さんには、できない事なのです。

体格的にもそうです。
細身の女形さんもおられますが、それでも女形さんは「男」ですので骨格などはどうしても
女性とは違っております。

そんな女形さんが 出てくるからこその「誇張」なのです。

逆にここに 女優さんがおられますと、どうしても線の細さが目立ってしまうのです。



華やいだ幕開きで、この後に登場する猿之助さんも お梶と云う芸者であり、
この場の柳橋の草加屋に、すでに来ている事を 伏線としてお客様に知らせ、
この後のお芝居の流れを よくして参ります。 

いわゆる 誘い水のような存在。(笑)


今日はこの六人の芸者さんたちに ご登場を頂きました。

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左から りき弥さん、笑野さん、蝶紫さん、千壽さん、喜昇さん、猿紫さん です。


およそこの人数 芸者だけで花道から登場すると云うお芝居は 実はあまりありません
今月のこのお芝居の為に わざわざ作られたもの!

舞台は柳橋の草加屋ですから もちろん江戸!

今日はここで 芸者さんたちの帯の結び方のお話し。



本来の『夏祭浪花鑑』は「上方のお芝居」です。
先日 登場された 尾上右近さんの琴浦は 遊女ですから、襟を返しており 
帯のむすびは 上方締めで(角だし)の状態です。

以前の記事が こちらになりますので、興味のあります方は
見てみてください。

帯の説明もしております。
今回とは違った方向から 江戸と上方の違いを説明させて頂いております。
一部重複しておりますが、このあたりはお許しを。


ですが、今回の『夏姿女團七』は 舞台が江戸ですので 芸者連の帯の結び方は
粋な「柳」と云う結び方です。

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今月同じ楽屋を使っております千壽さんの芸者で ちょっとモデルになって頂きました。

帯締めで結ばないで 幅広の帯が垂れた状態を「柳」と申します。


この締め方 上方の役者さんで 関西の舞台に芸者で出るときには 
まずこの結び方は致しません

今回は本当に珍しく 東京の舞台にて 江戸芸者のお役で上がらないと 
なかなか柳締めの芸者役は まわって来ないのです。


実際に、関西籍の片岡千壽さん、柳の結びの芸者を演ずるのは 
実に数少ないそうです。。

ちなみに私は 本公演で 柳結びの芸者はしたことがない と 記憶しております。
(角だし)はあります。関西で・・・かなり昔ですが・・・(笑)



来月 京都南座の顔見世で『仮名手本忠臣蔵、七段目』が出ますが、
由良之助のお役が 仁左衛門さんですので 一力茶屋の仲居連中は 
(角だし)に 締めております。

ですが、由良之助がもし 幸四郎さん 吉右衛門さんであれば 仲居連は帯を
「柳」に締めております。

これは一力茶屋と云う 場所ではなく 『仮名手本忠臣蔵』の江戸式 上方式の
違いによるものです。


この違いも 来月南座をご覧になれる方は ご注目を・・・・。



そして『助六』や『籠釣瓶花街酔醒』に登場する「吉原」の「芸者」連は 
帯を(角だし)に結んでおります。

これは吉原に限り 遊女が格上で「芸者」が格下と云う扱いが 顕著だったのです。

それ故 新橋 柳橋と云った 吉原外の「芸者」連が 柳の締め方を許さなかったのです。


芸は売っても 身は売らないと云う 江戸芸者の心意気だったのでしょうね。
(吉原の芸者が身を売っていたわけではありません、念のため)

次にご覧になる時 『助六』や『籠釣瓶花街酔醒』で 揚巻や八つ橋の花魁道中の際 
付いて出る芸者さんが居れば その帯の締め方にも ご注目ください。 

江戸であって (角だし)に結んでおります。

ただ揚巻 八つ橋を演じる役者さんの格もあり お付の人数が少ない場合は
新造だけになる場合もあり 芸者が登場しない時もありますので 
その時は仕方ありませんね(笑)


いずれにしても 女形さんが活き活きとする 歌舞伎ならではの 
華やかな場面ではあります。

『夏姿女團七』の幕開き芸者、是非ご注目くださいね。


追記 訂正。

コメント欄に 「お太鼓」の結び方は明治以後のモノで 本来の結び方は「角だし」です。
とのご指摘を頂きました。

まさにその通りで 歌舞伎では お太鼓ではなく 『角だし』です。 
私たちは楽屋内で 柳の結び方に対して 安易にお太鼓と表現し 普段は何げなく使っておりますが 
ご指摘を受けて 文中の表現をそのままにして、()で 謹んで訂正させて頂きます。

                 市川 猿三郎