今日は 今月の私のお役に付いての解説をしたいと思います。

既に中日も過ぎ、残りの回数もシングルになりましたので、
ご覧になった方も多いでしょうので、結構細かいネタバレも
させていただきますので、気になる方は ご注意ください。


さて、『四天王楓江戸粧』に出てまいります「石蜘法印」

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自分でやっていて思うのですが、一体何者なのでしょうね(笑)

「法印」とありますので、てっきり仏教系の僧かと思っておりましたら、
数珠を持って祈ったかと思うと、幣(ぬさ)も持っておりまして、さらには独鈷も。

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これが幣(ぬさ)です。 敬った言い方をしますと御幣のことです。

先々月の『小栗栖の長兵衛』で 春猿さんが振り回して?最後には ほり投げていた(笑)
あれと同じです。(たぶん・・・笑)

神事に使う幣を持ち 仏教の数珠を持ち 独鈷を持ち・・・(笑)

悪い事をこれから起こす訳ですから 歌舞伎のウソと云えばウソですが 
固定の宗派 信念に偏らないという 当時の知恵です。

しかも法印と云うと、僧侶の最高位ですが、残念ながら 石蜘法印には
その片鱗もありません(笑)

ちょっと調べてみましたところ、「法印」と云う言葉には 僧侶の位の他に

・中世・近世,僧侶に準じて仏師・絵師・連歌師・医師などに与えられた称号。
・山伏や祈祷師(きとうし)の俗称。    (大辞林より)

一瞬 「え?仏師??」とまた仏師役?と妙な反応をしてみました(笑)が、
実際は「山伏や祈祷師」 の部分にあたるのが この石蜘法印なんでしょうね。

と、なんとなくの身分と云いますか立場がわかったところで、
何と胡散臭い人物なんだ・・・と思ってしまうのですが、
私 結構力(法力?妖力?)があるらしく・・・


一応時の左大臣の高明には頭は下げておりますが 結構 対等に近い態度を
とっておりますし、何よりも、死んだ辰夜叉御前に蜘蛛の魂を入れて 
生き返らせているとは!
めちゃくちゃすごい力を持った修験者だったようですね。


他人事みたいに書いております、この法印。
実はめっちゃ大変なのです。いろいろな意味で(笑)


まずはご覧になられた方は ご存知でしょうが、猿之助さんによる幕開けと口上の後
なんと、一人で舞台中央にせり上って まいります。


なんで??と 私自身が思ってしまうのですが、客席から伝わってまいります、
「だれ?だれ??」「猿之助?」「違う」「だれ?」と云った感じの びみょう~な 
空気は痛いくらいに感じてしまいます(笑)

「猿三郎です、すみません」と云いたい気分になったり ならなかったり?(笑)
「石蜘法印」と名乗った後に チラシを がさがさされている方がおられると 
「ごめんなさい 載ってません」とか(笑)



また、衣裳も特殊なものです。

 
特に あの背負っている 縄のランドセルのような あれ!結構重いです。

「仁王襷(におうだすき)」と云いまして、仏像などで形どられているものです。

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代表的なものは歌舞伎十八番『暫』の鎌倉権五郎が背負っております。
これは舞台にて 大素襖を脱いだ後に 後見が背負わせます。

昔、後見のうまい方が居られて 舞台上で瞬時に結んだこともあったそうですが
現在では 出来上がったものを背負わせるようになりました。


私のはウコンの縄ですので 色彩的には1色ですが、のちに登場する鬼童丸 
碓氷定光 坂田公時は2色の綾縄になっております。  


色の数からもわかりますように 私の付けております仁王襷は 大きさ的には
小ぶりのものです。

後から出てくる立ち回り時の鬼童丸(團子ちゃん)も
小ぶりな仁王襷をして居ります。

また 右近さんや弘太郎さんのに比べますと、私のは宝塚のフィナーレの羽、
3番手4番手のスターさんが背負っている位のイメージでしょうか?(笑)

何となくの イメージできましたでしょうか?(笑)


実は私はこれを衣裳として使いましたのは 初めてなのです。

結構重たく、しかも 大げさに言ったら 後ろから羽交い絞め?されてるような
感じですので、長時間になりますと 大変です(笑)

まして幣(ぬさ)を襟にさしておりますので 右肩に荷重がかかりまして 
バランスが悪くて・・・(笑)


体はつらいですが、荒事の代表的な この仁王襷をつけることが出来ましたのは
嬉しい限りです。



また荒事と云えば これに気づかれた方はおられますか?
私の足元。
実はこんな感じになっております。

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力縄(ちからなわ)と申しまして これも荒事系の小道具です。

裸足よりもずっと力の入るようにとつけているものですね。

道成寺系の舞踊での押し戻として登場する際 大舘左馬五郎等 
下駄の場合もございますが 役者さんによっては この力縄の方もおられます。

荒事系の演目では 見ることが多いと思いますので この機会に覚えていただき、
次のご観劇の際には 足元にもご注目いただけましたらと思います。



こののち、石蜘法印は 辰夜叉御前と高明が権力を握っていくのに従い、
大内で権力を持ち、上使として立つ位にまでなります。

二幕で私が突然 狩衣を着てあらわれるのは そういうわけなのです。

それに伴って 追い出されたのが 猿弥さんと弘太郎さんの公家の男夜鷹コンビです(笑)



しかし、驕れるものは久しからず。。。
石蜘法印も敢え無い最期を迎えます。


「四天王楓江戸粧 5」にも書きましたが、あんなに悪の限りを尽くしたのに
最後はいい人になって めでたしめでたしの 高明。

辰夜叉御前は すでに死んでいたのを蘇らせただけですが、石蜘法印こそが
「なんでやねん!!!」と 突っ込んでいることでしょう。


法力があったばっかりに やらなくてもいい術を使い、必要以上の出世をし、
妖術を持っているにもかかわらず あっけなく斬られて 死んでいった 石蜘法印。


今日 秀太郎さんに 舞台裏で

「この法印 死者を甦らせるだけの力を持っているのに
 なんで 刀で斬られて あっけなく死ぬねん?なんかやったら?」

と 云われましたが・・・

私に云われても・・・台本ですので 死ぬものは死ぬのです(笑)
生き残ってしまったら 三幕が開かなくなってしまいます。



秀太郎さんにも 突っ込まれてしまい 改めまして なんだかなあ~な人生の
石蜘法印ですが・・・ 

演じている私は 普段あまりない登場の仕方といい、あまりない隈といい、
珍しい衣装といい・・・

体力的なものは別として・・・案外 気持ちよく演じさせて頂いております。(笑)


「摩訶不思議」とは 「非常に不思議なこと」「人知を超えた素晴らしさ」と
云う意味だそうですが、私にこの役が来たのは 本当に摩訶不思議、
そしてこの石蜘法印の存在もまた摩訶不思議。

私自身が一番摩訶不思議と思いながらも 精一杯勤めさせて頂いております。

これからご覧の皆様、私の背負っているものや、小道具 足元にも御注目ください。