昨日、おもだか音頭で 黒御簾音楽の事を書かせて頂きました所、
思いがけなく多くの皆様から ご興味のコメントをたくさん
お寄せくださいましたので、ついでと云ってはなんですが 
もう一日 黒御簾音楽の詳しい事を書かせて頂きます。

黒御簾音楽の曲と唄は 歌舞伎に於いてBGMとして使われますので
ほとんどと云っていいほど 最後まで演奏(唄う)することがございません

いい曲 いい唄 と云うより その時に登場したり 引っ込んだりする時の
主人公などの気持ちを代弁しているような 唄が多いのです。

そのくせ 直接的な表現は致しておりません 本当はもったいない事なのですが・・。 

この機会ですから 私の知っている範囲、と云っても 昨日の如く
杵屋榮七郎さんから 教えて頂いた事ばかりですが・・・(笑)

説明すると云うより どこの場面でこの曲と唄が使われているか ちょいと
書いてみましょう。本来なら曲も流れるといいのですが・・・。


まだ中日前ですので ここで書いておきます事で 残りの公演期間で
お一人でも多くの方に 聞いて頂けたら嬉しいと思います。



まず 昼の部で『夏姿女團七』の私がつき従って 竹三郎さんと登場する場面。

坂東竹三郎さんの「局に扮した老女 おとら」が駕籠の中から登場するときの唄。


《露の情けに だまされやすく 咲いてうつむく 花のくせ 
 色はよけれど むらさきは  変わりやすいじゃぁ ないかいなぁ》


この唄ですが 竹三郎さんの出に合わせて 途中でにゅう~っ と
消えていきますので、 だまされやすく~ あたりで終わってしまいます。


これは おはつ(琴浦)をたぶらかせて 連れて行こうとする 
老女 おとらの気持ちを 現しております。


「露」を受けて「咲いて」「うつむく」「花」と云うのは一体何なんでしょうか??
私の発想では 朝顔? それとも 変わりやすいで紫陽花?と思いました。

その後の歌詞に出て参ります「むらさき」と云うのは「むらさき花」の事だそうです。
恋の歌を歌ったというのには ぴったりな花だそうですね。

私はあまり詳しくないのですが、万葉集で紫と云えば 恋の歌、
それも純愛ではない恋だとか?

ちょっと興味がわきまして むらさき花の画像を見てみたのですが どうもこの
「むらさき」は小さく可憐な白い花で うつむくほどのサイズでは ないような??

謎のままに残ります。


そしてこの後の1幕の幕切れ 猿之助さん扮するお梶が屋台の外に出て
おとらの後を見送りながら 一抹の不安を覚えるときに流れる唄

《吹けよ川風 上がれよ簾(すだれ) 中の小唄の顔見たやぁ~》

これは屋形船の簾の中から 聞こえるいい声に せめて川風が吹いて
一瞬でも簾が上がり 中で唄っている女の人の顔が 見たいなあ~・・・と

この唄自体は希望ですが、その心の一つのかけらのうらおもて、
要するに おとらの魂胆が 垣間見られ 不安に思う感じでしょうか?



また、夜の部の一条戻橋で猿之助さん 袴垂保輔が花道から最初に登場するときには、

《義理と情けが 浮世になくば》と唄われ 独り心情を語る台詞を終えて

花道から本舞台に入ります時に残りの 《胸に畳んで 知らぬ顔》と 続きます。


お芝居をご覧の方は、お分かりだと思いますが これも保輔の心情を現している唄ですね。



皆様 お待たせいたしました!!!

イメージ 1
 

今日は 猿之助さんの袴垂保輔!ご登場いただきました(笑)

色々なものを内に秘め 「心に畳んで」涼しい顔を見せている?そんな袴垂保輔です。


この後 母、幾野(秀太郎さん)が登場の時も 先の《露の情け・・・・》
が 流れます。

幾野が保輔に対する心情を 花道七三で吐露した後 

《咲いて うつむく花のくせ~》と 続きます。 

これも幾野の思いが 黒御簾の唄によって語られる場面ですね。



戻橋の最後で 私 石蜘法印が従い 辰夜叉御前があんぽつ(駕籠)から
登場する時には

《花の木の間に 紅葉を添えて 来つれて連れて すそもほらほら 春吹く風に~》と
 
なりますが、 紅葉を添えて~ あたりで 演奏は消えてしまいます。

わずかな場面で 贅沢な登場 そしてわずかな曲と唄。 


少し書きましただけでも 黒御簾の音楽 心情と粋が 交差しておりますでしょ?

聞き逃したり 聞き流してしまうには 非常にもったいない 謎かけのようなものや
実は この後・・・と云った わかる人にはわかる 予告のようなものも 唄われております。

すべてを聞き取ることは 難しいとは思いますが、幕開きなどで流れてきます黒御簾音楽も、
バックグラウンドミュージックでありながら そうではありません。

少しでも聞き取って そこから始まります 物語を先取りしていただけるようになりますと、
かなり上級のお楽しみ方になるのではないでしょうか?

いつかこう云った黒御簾の唄や曲が 最後まで聞かれる演奏会があればいいですのにね(笑) 



さあ お待たせ致しました。明日は『四天王楓江戸粧 5』と しまして 
いよいよ4幕の あらすじ解説に入りたいと思います(笑)