『金幣猿島郡』のお芝居、序幕に猿弥さん扮する寂漠(じゃくばく)が
三井寺建立の為に引いて出て来る釣鐘が登場します。


三井寺とは、先月の巡業公演で訪れました、びわ湖ホールの近くにございます近江八景のひとつ。

私は残念ながら違う所へ参りましたので 三井寺には行けませんでしたが、
笑野さんや喜昇さんが訪れたそうです。


この鐘が序幕の清姫(猿之助さん)のお芝居にとって 大変重要な役割を果たします。




この後、多少物語のあらすじに触れますので、気になる方は ご注意ください。

ただし、あくまでも あらすじ程度です。





謀反を起こした平将門の妹の設定で七綾姫(米吉さん)と云うお姫様が登場致します。


私、猿三郎扮する役人 犬上兵藤(いぬがみひょうどう)が 将門の妹、七綾姫の首を求めて
「九つの刻限に首を受け取りに来る」と 七綾姫の乳人 如月尼(歌六さん)に申します。


この場合 九つと云うのは 深夜12時。 同じく、お昼12時も九つと申します。
 

午前と午後で同じ刻限があります。

さあここからが ややこしい所。 

アナログの時計を想像しながら 読んでくださいませ。

12時と対象の位置にありますのが、6時ですよね。

ここを「六つ」と云います。

つまり、「六つ」には 明け六つ(午前6時) 暮れ六つ(午後6時)があります。

(蛇足ですが、正確には「六つ」とは 夜明けと日没をこう呼びましたので、今の6時とは一致しません)


深夜、九つから一刻(いっとき)ごとに2時間づつ下がって参ります。

八つ(午前2時)七つ(午前4時)明け六つ(午前6時)と・・・。

「お江戸日本橋、七つ立ち」 と云う唄の文句がございますが、これは午前4時に江戸日本橋を発つということ。
そうしますと、ちょうど高輪あたりで 夜が明けて(六つになって) 提灯の火を消すことになります。


で 明け六つから 五つ(午前8時)四つ(午前10時)となり 三つと九つが重なり 
ここでまた元に戻り 正午となります。

従いまして一つ 二つと云う時刻はございません


一刻(いっとき)の半分が半時で、およそ1時間。 先の例で申しますと五つ半 と云うのは午前9時となります。

ちなみに、おやつと云うのは この八つ半(午後三時)に食べるお菓子の事で ここから来ております。



すみません、めちゃくちゃややこしいですね。
このあたりは 以前にも書いたことがございますが・・・なかなか 完璧に理解していただきますのは
難しいかと思います。

ちょっとした 歴史辞典や図表などに、時刻と方角を一緒にしたものが載っておりますので、
興味のある方は 調べてみてください。
ネットでも見ることが出来ます。



あらすじに戻ります。


『金幣猿島郡』のお芝居の場合は、私の役人が九つに首を受け取りに来る、と申しますが、
これは深夜の方の九つですので、真夜中12時の事。


清姫(猿之助さん)が、四つ(午後10時)の鐘の時に、自らの体(頭)を使い五つ目の鐘の音を響かせ
失神してしまいますが、寂漠が残りの4つを打って 九つの鐘と致します。

つまり、時間を2時間早く繰り上げたと云う訳です。 なぜか? それはお芝居をご覧ください(笑)

少しでも早く時間を経たせて 役人を引き込みたい理由があったのです(笑)




余談ですが、『仮名手本忠臣蔵 六段目』(勘平住家の段)で 一文字屋お才が 
お軽の身代を持って 与市兵衛の帰った時刻を「引け過ぎでも あったかねえ」と 女衒の源六に申します。

この「引け過ぎ」とは・・・


本来 江戸の下町の木戸が閉じられるのが 四つ(午後10時)でした。
それ以降は、往来が制限されます。

今でいう 門限ですね。


ただ、遊里の吉原だけは幕府より御目こぼしを頂き 特例として九つ(深夜12時)まで
営業させて貰っていました。 ですから大門を閉じるのが 九つ。

本来は違反なので これを「九つ」とは云わずに 「引け四つ(四つより後の四つ)」と申しておりました。  


忠臣蔵では山科の遊郭のお話なのですが、吉原に当てて お才が云った 「引け過ぎ」とは 
深夜12時過ぎを意味しております。  


この時鐘の音の事も含んで、御芝居をご覧になると 『金幣猿島郡』の序幕が、もっと面白いかと存じます。




ただ今、このブログをアップしようとしておりますのは 午後11時。

昔でいう四ツ半になります。

すでに、下町の木戸は四つ(午後10時)に閉じられ、吉原の大門も 後1時間くらいで閉まります。

商いが終わり 今、吉原に向かって 日本堤あたりを駕籠で爆走している人も 多いでしょうか?(笑)

私は ブログを書き終わって、いよいよ 自分の時間に突入です。



こうして いまの時間に当てはめますと、ちょっと 昔の時間もお芝居の中の時間も 
身近に 感じられるでしょうか?