今月の新橋演舞場 十月花形歌舞伎公演、猿之助四十八撰の『金幣猿島郡』と
『獨道中五十三驛』に目が行きがちですが、昼の部の『俊寛』も
猿翁旦那が得意とされた演目でした。

ただこの『俊寛』は 猿翁旦那だけではなく 様々な方が勤めておられ
そのどれもが、名演で私たちの目に残っております。

遠くは十七世勘三郎さん 三代目延若さん そして富十郎さん 十八世勘三郎さん
どの方の『俊寛』を拝見しても 別派で感動したのを覚えております。

また 丹左衛門の、十三世仁左衛門さん 宗十郎さん等々
瀬尾太郎では 富十郎さん 左團次さん 我當さん 段四郎さんなどの名演技も目にございます。


別口としてですが、前の歌舞伎座に於きまして、随分昔に前進座の記念公演がありまして、
中村翫右衛門さんの『俊寛』で 孝夫時代の仁左衛門さんが丹左衛門で登場すると、
本当に颯爽として居て カッコイイ~!と思った事もございました。(笑)

それだけ数多く演じられている『俊寛』ですが 今月は右近さんが熱演されております。

右近さんは2000年に国立劇場に於いて 自主公演でこの俊寛を勤められ
私はこの時 平判官康頼のお役で出させて頂きました。


名題下当時から十七世勘三郎さんや三代目延若さんの俊寛で 船頭のお役から供侍まで
何度 この俊寛に出させて頂いた事でしょう。

次に 右近さんの公文協の巡業公演で『俊寛』が出ました時
私は、門之助さんの丹左衛門の供侍のお役でした。

この時が2007年(平成19年)7月の巡業でして、 私が猿三郎を襲名させて頂きましたのが
2008年3月、ブログを立ち上げさせて頂いたのが2月で それより半年以前の事でした。

もう7年も前の事なのですね。


この『俊寛』作品としても私は好きですが それより好きなのは 超アナログ的な所です。

本国から来た設定で 御赦免船が舞台奥を千鳥の合い方に乗って 
ゆっくり下手から上手に進みます。


これが何ともゆったり感と共に 千鳥の鳥の笛と共に 期待と情緒を醸し出しまして 
私は大好きなのです(笑)

(なぜか ヒロインが千鳥 合い方(曲)が千鳥の合い方
 そして笛の音が鳥の千鳥・・・千鳥づくしなのです・・笑)


合い方の付き直しとと共に、大太鼓の浪音と共に 上手から大きな船を思わせる舳先だけが登場致します。

これが先の小さな船から 舳先より上手の部分が見えないのに より大きな船を想像させてくれるのです。(笑)

本来 舞台上には舳先しかありませんが・・・(笑)

そして、大詰めで俊寛が見送る船が 赦された人たち 役人たちを乗せているであろう事を
想像させてくれて このミニチュアの船は帰りには登場致しませんが 船は客席の向こうに想像させて
上手から下手花道へと 逆に戻って参ります。

俊寛の気持ちを 乗せながら・・・。

これが精巧な船ではなく 本当にアナログな船だからこそ お客様が想像して下さるのです。


今日の写真はそのアナログの御赦免船です。

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全長 60センチくらいのこの船が『俊寛』と云う御芝居では 重要な役割を果たします。

ここに一体何を乗せてきて、何を乗せて帰るのでしょうか?

物語り以上の物語がある事でしょうね。