毎日暑いですね。

数日前から、朝起きますと、セミの声が聞こえてくるようになりました。

「み~ん、みんみん」「じぃ~じぃ~」といったのを聞きますと やはり夏本番を
感じずにはおられません。



昨日のブログのご感想に 『修禅寺物語』では、蜩(ひぐらし)と鈴虫の鳴き声に 癒されました。
みたいな ご内容のコメントを頂きました。

ありがとうございました。


『修禅寺物語』の中で、皆様の目に触れない御芝居をしているものに 
虫の声がございます。

幕開きには夕暮れらしく 蜩(ひぐらし)が鳴いており、頼家一行が訪れた時にも、
まだ 時々 鳴いております。 その後 箇所箇所で鳴いたりやんだり・・・・。

このあたり、ある人の台詞と蜩の声までに耳が冴えますと かなり通なお客さまでしょうか?(笑)
ある人の台詞では 一切音が止まりますのは お気づきの方は おられますか?

すべてが まるで蜩が さらにお芝居を盛り上げているように 思えます。



そして、二場の虎渓橋の場となるとすっかりと日は暮れ、蜩は居なくなり、
今度は夜半の虫の鳴き声となります。

この虫は 鈴虫か 松虫か こおろぎか? 

これは定かにはわかりませんが、なんとなく虫が鳴いております。(笑)


そして、金窪兵衛の家来が上手から密かに頼家を窺い 草むらに潜み
兵衛が登場する前には 虫の鳴き声は かき消す如くなくなります。

桂の台詞に「あたりにすだく虫の声 吹き消すように止みましたは?」と
ただならぬ気配を感じます。


これから起こる 殺気立ったる人の気配に 虫たちはいち早く気付く訳です。


この虫たち、テレビや映画などでは、SE(サウンド・エフェクト)と申しまして
録音したものを画面に合わせて流したり致します。
(アテレコと申しまして 後から画に当てます。)

ですから、収録の時にはこの音が聞こえません 


今日のブログを書かせて頂くにあたって 中車さんに取材させて頂きました。(笑)
後ほど 面白いお話を合わせて 書かせて頂きます。



まずは、歌舞伎の舞台の場合ですが 全部がお客様の目の前で 御芝居が進行します。
当たり前ですね(笑)

他の大衆的演劇の場合では これはタイミングをはかって あらかじめ録音されたものを
ミキサー(音響)さんが流す事も多いです。

スーパー歌舞伎もこの方式。


今回の『天守物語』もこの形ですが、『修禅寺物語』や『夏祭浪花鑑』は
鳴り物さんが黒御簾内で 釣鐘の音などを遠い描写として鳴らしたり
音楽で演奏致します。


泥場の団七と義平次の立ち回りに使われます 「だんじり囃子」などは、よい例ですね。

これはあくまでも「鳴り物さん」の領分ですが、先の『修禅寺物語』の蜩や虫の鳴き声は 
効果音ですが、これは役者が担当致します。


(◎ある狂言ではこの蜩も 三味線で表現する事もございますが、このお話は明日にでも・・・。)
 

ひぐらし 2人 虫笛 4人 修禅寺の御芝居の間 舞台裏や袖におりまして
台詞きっかけで その笛を吹いております。


『吉野山』の鶯 『黒塚』の虫笛などもそうですが この効果の笛を吹くのも
かなり技術のいる物なのです。

ただやたらに吹くのではなく 情景に合わせ 台詞を聞き 合わせて音で芝居をしてます。
この6人も常に舞台に 参加して居なくては 効果の笛は吹けません 
舞台の出演者の一人なのです。


誰が吹いているかは、あえて紹介致しませんが 虫の気持ちになって
舞台に参加している役者さんがいる事も ご承知おき下さい。

そして一場は蜩 二場は虫の声 三場は鳴り物の遠寄せ(合戦の陣触れ等)
この情景の音変化も 『修禅寺物語』の見えない主役です。



そして先の中車さんから伺ったお話。

テレビや映画の収録の最中に 視聴者が実際にテレビで見ている時のような
例えば 虫の声 風の音 さらに色んな周囲の人々の話声、
これは逆に何もないそうです。

もちろん 私たちが一緒に聞いているBGMも 収録の時は流れている訳が無いのです。
収録後の編集の時に監督さんや 演出家が ここでBGM ここでこの音!と 
繋がった画面を見ながら 音を入れて行くのだそうです。 


そればかりか、例えば恋人同志が野球場で 野球を見ていて 二人の台詞になった時、 
二人だけの会話を重要視して その周りに入るエキストラの人たちは 一切 言葉を発せず 
パントマイムでまさに「無音で(笑)」騒いでいるのだそうです。

そしてあとから、ガヤと云って 騒々しい野球場の雰囲気を
その画面に当てて 台詞バックの効果音として 録音して行くのだそうです。



これは逆に私も目から鱗でした。(笑)

一場面づつ カット収録したものを つなぎ合わせての一つの映像を作り上げて行く。

この世界 今の私には入って行く事は出来ないかも知れません
昔の若い頃はやりたかったのですが・・・(笑) 


中車さん そう云った あるはずの音や騒音がない中で 演技される事に慣れておられたのに 

あるものをその場で、役者や鳴り物さんが 作り上げて 一つの場面が出来ていく、
いわば、毎回 歌舞伎の一場面を リアルタイムで作り上げる世界に 
よくぞ飛び込んで来られたと改めて敬服した次第です。


さて、このちがい どう感じられたのか・・・これは 今日は伺えませんでした。
でも いつか聞いて見たいです。

どの世界でも 表には現れませんが、それぞれのプロフェッショナルの方が 
陰に居てこそ すべてが成り立っている!  そのことは 共通している様な気がいたします。