今度の巡業の演目のひとつ、猿之助さんと中車さん共演の『一本刀土俵入』
歌舞伎には珍しく漢字六文字の題名です。

本来 歌舞伎の題名は三文字 五文字 七文字の奇数タイトルが多いのですが、
これは明治の頃に 新歌舞伎として書き下ろされた演目の名残でしょうね。

江戸歌舞伎に対して 歌舞伎役者が競い合って新作に取り組んだ時代。

以前にもブログで書きましたが、歌舞伎役者が舞台に於いて股旅物を上演するのは
本当に少ないのですが、その中でも名作が生まれました。

真山青果作の『荒川の佐吉』 長谷川伸作の『瞼の母』そして『一本刀土俵入』等。

長谷川伸の作品は他にも『沓掛の時次郎』や『雪の渡り鳥』『関の弥太っぺ』などの
作品もあるのですが、これらは歌舞伎ではあまり上演されませんねえ。

股旅物ではありませんが『暗闇の丑松』や『刺青奇偶』なども長谷川作品で
これは、歌舞伎でもよく上演されます。

他には村上元三作の『ひとり狼』も股旅物歌舞伎と表現していいかも知れません(笑)

ご覧の様に並べた題名も ひらがななども入り 歌舞伎らしくありませんが、
猿翁旦那が強調されるように「歌舞伎役者がお芝居をすれば それはすべて歌舞伎である!」と


ですが、これからご覧になられます場合、外題を見て 奇数でなかったら 明治以降の新歌舞伎かな
と予想しながら その演目を調べてみるのも 面白いのではないかと思います。

ちなみに、通称ではなく、正式名称で判断してくださいね。
たとえば、「鳴神」は偶数ですが、『雷神不動北山桜』のひとつの場面です。




話は変わりますが 『一本刀土俵入』の ”一本刀”とは 武士の大小”二本差し”に対して の言葉。

所謂 やくざは武士ではなく、町人ですので 大小を持つことはできません。
そこで けんか用の長脇差し(通称 長ドス)を持っております。その事を指しております。

正直、ドスは刃物ではございますが、刀ではないのです。 


武士の大刀ほど長くなく 小刀よりも長い ちょうど中間あたりでしょうか?
懐に忍ばせているのを匕首(あいくち)と云い それの長めのものと ご認識下さい。


ですが、この歌舞伎の『一本刀土俵入』の主人公 駒形茂兵衛は実はこの長ドスを一度も抜きません
そして、人も殺さないのです。 

これは股旅物の他の作品の主人公とは 明らかに違うキャラクターです。


元 関取と云う経歴の持ち主が、なぜやくざになったのかは 作品の中では出て参りませんが
テレビ等でもお馴染な お相撲さんが主人公なだけに やはり私たちに身近な人だからこそ
人を傷つけると云う事が無い様に そう云う演出にしたのかも知れません

その辺もご注目の上 お芝居をご覧ください。


さあ、明日は 現地にての舞台稽古、明後日はいよいよ 巡業の初日です。