『上州土産百両首』

戦後の上演としては 20年前の 猿翁さん 勘三郎さんの 正太郎 牙次郎。

亀治郎の会を除いての本公演となりますと 今回の浅草公会堂と
まだ、歌舞伎での上演は2回しかありません

これもまた珍しいですね。


その、2回共の公演に 出演している役者となりますと、
本当に限られて参ります。 

奇しくも私は、今回も出演させて頂き嬉しい限りです。

門之助さん扮する親分 隼の勘次の手下、浅次。

一番、兄貴株ですから親分から 人相書きを見せらるのは
渡してくれる姐さんから 直接受け取りまして、
一番最初に人相書きを見る事になります。

その人相書きがこれ。

イメージ 1


(ちょうど真ん中に折り目がありますので、写真に撮りますと
 少し歪みが出てますのは お許しくださいね) 

昔はプリントアウトや コピーが出来ませんから
一枚一枚 手書きで書いていたのでしょうか。

または、瓦版の様に彫り師に頼んで 印刷していたのでしょうか?(笑)


こう云った仕事も 奉行所の中に実際にあったそうです。

今でもモンタージュ写真より この道の専門家が 書いております
目撃者の手書きの 手配書の方が 犯人の検挙率が高いそうだと云う事は、
新聞か何かで読みました。

実際そうなのでしょうか? 



この人相書きは小道具ですから、お客様の目には 入りません

この人相書きの顔、やはり猿之助さんに 似ているでしょうか?(笑)


牙次郎が親分から「人相書きも見ておきねぇ」 と見せられながら 
四つの鐘(午後10時)が鳴ると そちらに気が行ってしまって 
姐さんから云われた「額に傷のある男ですね!」と 顔も確かめずに 
待乳山聖天に走って参りますが、ここで人相書きを しっかり見ていれば 
あるいは先に正太郎が 百両首と分かったかも知れません


ま それではお芝居が 面白くないのですが・・・(笑)


牙次郎が会いたい正太郎!! 額に傷のある男! 

待乳山聖天で10年ぶりに 正太郎と牙次郎が出会い 
そして正太郎が 笠を取り 顔を見せた時に
思わず牙次郎が「兄貴 どうしたんだ?その額の傷? ぁ!!」と 

言った自分自身の言葉に 思わず愕然として そこでやっと額の傷の男が
”正太郎”と云う事に 繋がります。


この演出方法は『仮名手本忠臣蔵五・六段目』の勘平に通じるものがございます。
お客様がすでに知っている事情を 舞台上での勘平(牙次郎)は知りません

これから牙次郎は この事実をどの様に受け入れて行くのだろうか?と

会いに来ただけのつもりの牙次郎、 しかし捕り手の出現により正太郎は、
すべて仕組まれた牙次郎の仕業と思い 怒りに罵声を浴びせますが・・・。

そして・・・。 

そこがこのお芝居の醍醐味で 待乳山聖天の場での牙次郎の気持ちが
お客様の心情と合致して行くのです。 うまく出来ておりますね。(笑)


こちらの舞台も 後明日明後日の二回。
ご覧になられるお客様は 頑張って人相書きも見てみて下さい。
二階三階からなら見えるかも知れませんね。