今月の新春浅草歌舞伎 夜の部に『博奕十王』と云う 
ユーモラスな舞踊がございます。


所謂、松羽目物なのですが、一風変わっておりまして、
場面設定が地獄の八熱地獄の手前 六道の辻と云う所。


閻魔大王が やってきた亡者どもを地獄へ送るか 極楽へ送るかの
判決場所なので 板目には炎が描かれ 松羽目が焼かれている状態で 
松が茶っ褐色に変色致しております。


そして、後ろに並ぶ長唄連中 鳴物連中 後見、他
つけ打ちさんに至るまで 頭には、日本の幽霊がつけます三角布を巻いております。

この三角布 私たちの衣裳の言葉で ”シの字 ”と呼んでおります。

これは三角布に シ(死)の文字を裏返した字が 薄い墨で書かれており、
あの世は現世とは、何事も逆様 と云う意味を表しております。



この『博奕十王』は1970年(昭和45年)歌舞伎座で
猿翁旦那の自主公演 第5回春秋会でたった1回だけ、
上演された 猿翁旦那の創作舞踊です。

振付は 日本舞踊の神様 六代目藤間勘十郎さんで、なんともユニークな
仕上がりとなっております。

その後 亀治郎の会でも上演されましたが、本公演としては今回が、
初めてでございます。


今回、上演の折に際し 猿翁旦那が少し手直しされ
振付 長唄作調 鳴物作調が 初演当時の お孫さん達による 
七世藤間勘十郎さん 他 杵屋六左衛門さん 田中傳左衛門さん
が あたられており さらに改良されました。

ここで、正式に この演目がおもだかやの家の芸として
成立した事は 本当に嬉しい事です。

たとえば、猿翁十種 澤潟十種などの舞踊の制定演目と同じように
今後 四代目猿之助さんの踊りの演目のひとつとして 数えられる事でしょう。



簡単に物語を御説明致します。

(筋書きなどを読まずに 真っ新な状態で ご観劇される予定の方は 
 以降読まない方がよろしいかと・・・)



仏を信じる者が多くなり 今や地獄は閑古鳥。
 
閻魔大王(男女蔵さん)は なんとか地獄に送るものはないかと 
鬼たち(猿四郎さん、弘太郎さん)に嘆いております。
今度ここへ来たのものはなんとか責め落とし 必ず地獄に落としてやると 
豪語しております。

そんな所へ博奕打ちの亡者(猿之助さん)が、博奕の結果で 喧嘩になり、
殺されてしまいまして ここ閻魔大王の元へ やって参ります。

閻魔大王が 「博奕悪行 地獄だ!!」と云う処
その博奕打ちが 「博奕は単なる遊び そんな事で一喜一憂する事ではありません」
と 説きますと 閻魔大王が 「博奕とはどの様な物じゃ」と 聞いたところから、
サイコロを見せて 振ろうと致します。

ただ、サイコロを振って博奕の真似事をしても 面白くありませんので
「なにか賭けるものがないか」と 大王に申します。

大王は、ならばと初めは手に持っていた笏を賭けたところ 簡単に負けてしまい
博奕打ちに 取り上げられてしまいます。

意固地になった大王は次は冠だ!! と・・・・。(笑・・よくあるパターン)


一つの目を言って、賭けるわけですから、圧倒的にどちらが有利か、
わかり切っているのですが、気づかないものなのですね(笑)


家来の鬼たち(弘太郎さん 猿四郎さん)も、鉄棒など次から次へと 
散々巻き上げられ とうとう衣服まで はぎ取られてしまいます。


最後には 極楽行きの通行手形までを賭けて 結局その通行手形まで 
かっさらわれ 博奕打ちは意気揚々と 喜び勇んで極楽へ向かうと云う、 
単純明快 とてもユーモラスな舞踊劇です。(笑)



私はこの舞踊 実は今回、初めて見せて頂きました。

猿翁旦那の上演の時は 私はまだ歌舞伎界には入門しておらず、
まして たった一回だけの上演 亀治郎の会も含めて
今まで 見る機会がございませんでした。

今回 猿之助さんが掘り起こされ 猿翁旦那らしい発想のこの舞踊を 
猿之助さんが いとも楽しそうに 演じておられるのが 好印象です。(笑)


まだご覧でないお方も ぜひ浅草の夜の部『博奕十王』も 御観劇下さいませ。

その他にも『新口村』『屋敷娘』『石橋』も もちろん!! 
これから浅草歌舞伎を担っていき、その後歌舞伎界の中心となるであろう
若手も大活躍しております。

お勧めですよ~(笑)