昼の部の最初の演目『鳴神』と、夜の部の最初の演目『毛抜』は
『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』の通し狂言の中の
一場面づつであることは、過去に何回か、書かせて頂きました。


巡業公演の折りに秦民部(はたみんぶ・・・私)が、呪文を唱えながら、
錦の前(笑野さん)の髪の毛の奇病を落ち着かせますが、
その呪文も 鳴神上人から授けられたもの。

(今回はこの呪文は唱えません)
代わりに巻絹(笑三郎さん)が、錦の前(今回は新悟さん)に、かつぎを被せます。


また鳴神上人が、龍神を封じ込めて 雨を降らせないようにした原因の一人が
錦の前と春風(笑也さん)の父、小野春道(門之助さん)なのです。



このあたりはミステリー歌舞伎『鳴神』の時に 詳しく紹介致します(笑)

今日は今月の『毛抜』のお話ですが、今年は、これで私たち一門
3度目の『毛抜』です。


1月松竹座、7月巡業公演での粂寺弾正は右近さんでした。

今月、明治座公演では中村獅童さん

そして周りの出演者の配役が 一門他に微妙に変わっております。(笑)

松也さんの秦民部が1月は薪車さん、7月は私、
笑也さんの春風が 1月は門之助さん7月は笑也さん
門之助さんの春道が1月は竹三郎さん7月は猿弥さん
猿弥さんの玄蕃が 1月は猿弥さん 7月は欣弥さん
大蔵さんの万兵衛が1月は私    7月は猿四郎さん 等々。

どこで誰がとは云いにくいほどの替わり方です。(笑)

猿弥さんなどは どっちがどっちで~? といった状態でしょうか。
今月私は出ておりませんが、これでまた 違ったお役だったら・・・

混乱の極みだったことでしょうね。




その配役のことばかりではなく、今回は楽屋で
モニターで聞いております『毛抜』
あれ? と 思われる要素が多分にございます。


巡業の折にも申し上げました『毛抜』の演出。
これには大まかに「團十郎型」と「左團次型」がございます。


今までは  私たち一門は 左團次型で演じてまいりました。

ところが、今回やっております舞台は 團十郎型になっているのです。 

つまり・・・
このあたりの比較は 以前のブログもご参照のうえ お楽しみください


幕が開きますと、舞台全部が御殿内です。 
従いまして外を表す下手の木戸はありません

しかし團十郎型で普通はあるはずの 屋敷内の御殿の屋根がございません


ですがここまでは、團十郎型の舞台機構になっております。



ところが、弾正の衣裳は白の着付け、碁盤の裃で
いわゆる「左團次型」なのです。

海老柄の裃の衣裳は成田屋系の方しか着ることが許されません

先の民部の件を先に書きましたが、
今回の『毛抜』はミックスバージョンと思って頂ければよいでしょうか?(笑)



皆様の見た目の違いにも こんなに 巡業とは相違点がございます。


また詳しい 演技の部分で申し上げますと 


万兵衛の登場の場面では、弾正の控えている場所が
「左團次型」の右近さんは上手であったのに対しまして、
今回の「團十郎型」の 獅童さんは 下手に控えております。

これは先ほど書きました 舞台が「一部外で屋台に入ってくる」(=左團次型)
「元から全部が屋台なので、木戸がない」(=團十郎型)によります。


また、民部が万兵衛に差し出す心附けは 薪車さんや私の時(=左團次型)は
民部自らが懐から出して置きますが、

今回(=團十郎型)は三宝に載せて秀太郎(春猿さん)に申しつけ 
下手からの登場となり、それを民部が万兵衛に渡します。 

もちろん台詞のやりとり等 細かい所も多々ございますが、
これが本当!と 云うのがないのがまた歌舞伎なのです。


舞台の大きさ 上演時間 役者によって様々な所が違います。

簡単に 團十郎型と 左團次型の見た目の違いを中心に書かせていただきました。
細かいところでは もっと違いもあります。


短いスパンで 同じ演目・・・と思う方もおられるかもしれませんが
その時こそ、「型」の違いを 見比べられる絶好の機会です。

一度見ただけでは・・・とおっしゃられる方も おられましょうが(笑)
そのために イヤホンガイドがございます(聞いたことありませんが・・・笑)

また、私もかかわっている限りは いろんな解説をさせていただきたいと
思っております。


それもまた歌舞伎の楽しみ方として 今回の『毛抜』もご覧くださいませ。