ここのところ『夏祭浪花鑑』の主要女形さんに
ご登場願って居る訳ですが、お梶 琴浦と来ましたら
やはり 一寸徳兵衛 女房お辰にもご登場頂かなくては なりませんね(笑)


残念ながら、お梶と並んで登場する場面はないのですが、『夏祭』の演目では
本当に重要な役どころでございます。

以前十七代目勘三郎さんが 『夏祭』を出された時に 団七とお辰を早替りで
二役された事もございます。


釣舟三婦が一旦、団七から預かった磯之丞ですが、琴浦とひとつ屋根の下に居ると
浜田のお屋敷の手前 なにかと問題になりそうなので、三婦女房おつぎが、
ちょうど磯之丞の国元 備中へ旅立つというお辰に 磯之丞を国元まで連れ立って下さい
と願い出ます。


それを三婦は 余計な事をするな!と おつぎを叱りつけますが、収まらないのはお辰。

一旦 引き受けると云った手前 私にも意地がある 預けられない理由を聞きましょう。
と 迫ります。 

三婦はお辰に「お前の顔に 色気がある故」と 云います。

これは、若い男 磯之丞と旅をするのに 磯之丞がまた、お辰の色気にのぼせあがり、
万が一 間違いでもあった時には、私が預かった手前申し訳が立たないと 
三婦は云います。


三婦の云う事ももっとも と思いながらも お辰は引き下がれません

自分の顔に焼きごてを当て わざと火傷を作り「これでも 色気がござんすか?」と
三婦に云います。 このあたり、本当に歌舞伎の見せ所ですね!!


実際、自分自身のエゴの為にわざと傷を作る人は居りましょうが、

ひとの為にわざと火傷まで 作る人はそうざらには居りますまい。
 

こう云った心意気 江戸っ子に近いですが 上方にも鉄火の女が居ると云う事です。


この心意気に三婦は 兜を脱ぎ「でけた!!」と 磯之丞を預ける決心をします。

そこまでやってくれたら さすがに三婦も何も言えないでしょう。
 

火傷の手当てをする為に お辰が上手奥座敷へ引っ込みます時に、
三婦が見送りながら思わず、

「なんで 男に生まれて来なんだ! あったら物を 忘れてきたなあ~」

と、いいますが、
かなり意味深な台詞ですよね(笑)お分かりになられますか?

(私が知っている三婦の時は あったら物を落としてきたなあ~
 という台詞もございます。)



今日の写真はそのお辰に扮している 上村吉弥さんです。

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今回の衣裳は少し 濃いめの紗ですが、かなり薄手の紗で 
肌襦袢が見えるくらいの時の方が 多いですね。

ですから三婦は色気を感じたのでしょう。

襟が返してあるのは これは昨日の琴浦の様に 遊女のそれではありません(笑)

単に暑いからという表現だそうです。(笑)

宗十郎さんが同じく お辰をされた時には 左右ともに襟を返して
着ておられたそうです。

理由は「暑いから」との事ですが、やはり遊女の様に襟を返しているのですから
色気は充分過ぎるほどにあった事でしょう。



吉弥さんとは二十歳位の時に 知り合いましたから 
もうかれこれ40年ほどのお付き合いでしょうか?

若鮎の会では 夫婦 親子 恋人同士と色んなお役をやりました。 

先日も書きました『すしや』のお里と若葉の内侍は 彼と私のダブルキャストでした。


若い頃から華があり 今では押しも押されぬベテランの幹部さんになられました。
これからも上方の女形を 引っ張って行かれる立場でしょう。


若手中心の今月の一座の中に 共に若い頃を過ごしてきた 戦友の様な
吉弥さんが居るのは やはり私にとっても 居心地のいいものです。

この先、進む道は違っておりますが 進んできた道の一部は 同じです。

若手の台頭、旧友との邂逅。

大阪の地で いい一ヶ月を過ごしているなと思います。