『夏祭浪花鑑』の中で、別に自分が悪い訳でもないのに、
どうしても物語が進行して行く中で 諸悪の根源に近い扱いをされて
中心人物となってしまう人に 遊女 琴浦が居ります。


・・・実は一番のバカぼん?は、この琴浦に惚れた人物でしょうが・・・


別に琴浦に限らず、歌舞伎のお芝居の中の女は、どうしても回りに居る人を
振り回してしまう傾向? が ございます。


兎にも角にも その女性が美しいが故、周りの人が放っておかない訳です。(笑)

それが、事件の発端となる事が歌舞伎のお芝居にはよくあります。


その最たるものが『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいさめ)』

「八ツ橋」が絶世の美女でなかったら。。。 
それにつづく悲劇はなかったでしょうに・・・。

また、その他では『名月八幡祭(縮屋新助)』の芸者深川の「美代吉」。

上方では『恋飛脚大和往来』(封印切)の「梅川」
『心中天の網島』の「小春」『曽根崎心中』の「お初」 等々 
中国の『楊貴妃』もそうでしょうか?

数え上げたら切りがありませんね(笑)


これらの女性に惚れてしまう 男が悪いのか? 
それとも美人に生まれた女が悪いのか?(笑)

間違いなく、惚れて回りが見えなくなる 男が悪いのでしょうが、
それにある意味、引きずられて不幸になってしまうのは・・・
気の毒と云うか なんというか。



現在でも事件を起こす男の影には女あり!


でも、必ず云える事が いにしえから続くこの関係がないと
男女の仲は成り立ちませんし 歌舞伎と云うお芝居も生まれなかったでしょう。


いい男といい女。

好き同士の二人 これだけならつがいになっても なんの問題もありません
これがうまく行かないから 事件が起こる発端となってしまいます!!


一人の女に、二人の男が惚れた場合、
その女の惚れている方が金もあり 力もあり 男もよい。

これならもう一人の男はあきらめざるを得ません

ところがそうは問屋が卸しません!
大概 惚れる二人の男の 顔の良い男の方には金が無く 力もない

醜男の方にはありあまる金と力がある。大体お定まりはこうなのですが(笑)



『夏祭浪花鑑』でも 磯之丞が惚れた琴浦。

身受けをしたのですから、それでつつがない筈が、ここに横恋慕する佐賀右衛門の存在。

まったく うまく行かないものです。


今日の写真は『夏祭』の団七が義平次殺しの原因を 計らず作ってしまう琴浦。
尾上右近さんの登場です。 


「お鯛茶屋」では、磯之丞と琴浦で 義経と静御前に扮して 
遊興に耽っている場面から始まりますので、
琴浦は白拍子の長絹を上から羽織っております。

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この格好がなんであるか、また、対になります 磯之丞がどうして おみ衣を
着ているかがわかりませんと、幕開きの楽しみが 半減とは云いません、
一割減でしょうか(笑)




イメージ 2


一方、こちらは住吉大社での琴浦です。


演じておられる尾上右近さん、
正直、今月の舞台では 上方には縁の少ない方の一人です。

上方の役者の多い中、お若いのに 上方役者の中に囲まれての大役は
大変だと思いますが、か弱さ、線の細さなど、琴浦らしい琴浦だなと思います。

私の中の琴浦像に近い琴浦をされているように思うのですが、
皆様にはどう思われましたでしょうか。


この琴浦 なりは芸者の姿をしているのですが、
表現では乳守の遊女となっております。

琴浦の襟に注目して下さい。

右の襟を一部返して、赤い部分を出しております。
これは、上方の独特の表現のひとつ。

後には、江戸の方にも伝わり、江戸の芝居でも返し襟をしていることもございますが、

この赤の鮮やかな襟を見ますと 上方の花街の芝居だなと 感じる事ができます


この返し襟につきましては、色々な説がございまして、衣裳さんなどにも
聞いて見たのですが、確実なところは 時間不足でした、ごめんなさい。
 

江戸の芸者で返し襟をする事はないそうです。

ですが、上方の芸者は返し襟をする場合があるそうです。

上方から 江戸へと行った 風習のひとつでしょうか。




もうひとつ、面白いのは帯の締め方 

以前にも申し上げましたブログがございますが、江戸と上方では締め方が逆なのです。

立ち役でも女形でも 江戸は反時計廻しに帯を締めますが 
上方では時計廻しに帯を締めます。


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これはお鯛茶屋での琴浦の帯の締め方 お太鼓、角だしと云う締め方ですが、
見て下さい。 
角と呼ばれる部分が右 テと呼ばれる部分が左に来るのが上方式。

江戸の締め方は 締める向きが違うために これが逆になります。


女性でお太鼓を締める方、最初の手の部分を右肩に掛けるのが江戸式、
左肩に掛けるのが、上方式です。

関西の皆様、どちらで締めておられますか?


私は 浴衣の貝の口、自分でどちらでも締められます。
実は ちょっと自慢の一つです。


余談ですが、新橋 向島といった 江戸の芸者は柳と云う 帯を垂らした締め方で
これは粋(いき)を表しております。

上方のお太鼓の角だしは粋と書いて(すい)と読みます。 

これらの違いも面白いですね。


もうひとつ余談ですが、吉原の中の芸者は遊女より格下と云う扱いでして、
柳に垂らす事が許されておらず、お太鼓に結んでおります。


『助六』や『籠釣瓶』などの演目で吉原の芸者が登場した時には 
その帯の結び方にもご注目下さいませ。