『夏祭浪花鑑』は、通常 「住吉鳥居前」から上演される事が多く、
磯之丞と琴浦のふたりと 団七、一寸徳兵衛 それに繋がる団七女房お梶と
人間関係がよく分からない所がございました。

また、そういった上演の方式では どうしても「泥場」の殺しの場面ばかりが 
クローズアップされてしまい、物語の本筋や人物関係が よくわからないままに
見終わってしまわれる方も 少なくはないかも・・・知れません。


今回は序幕「お鯛茶屋」からの上演と、
「住吉鳥居前」の次に「内本町道具屋」「番小屋」がつづいておりますので、
そう云った意味では よく分かって頂けると思います。



磯之丞(薪車さん)は琴浦(尾上右近さん)と良い仲で堺の乳守から
身受けを致します。が
この琴浦に横恋慕しているのが 大鳥佐賀右衛門(當十郎さん)


このためになんとか画策して 琴浦と磯之丞を切り離そうと、
磯之丞の父 玉島兵太夫に 告げ口をして 磯之丞を勘当させますが 
肝心の琴浦まで 一緒に姿を消してしまいます。


「お鯛茶屋の場」で 磯之丞が佐賀右衛門と一緒に 遊興に耽っているのは
まんまと佐賀右衛門の策にハマっている訳です。

それが証拠に団七女房お梶が 磯之丞の母と名乗ってお鯛茶屋に来た時に
磯之丞と一緒に居る所を 見られるとまずいと思い 磯之丞の難儀は勝手にせい
と 自分は、すたこらさっさと 逃げてしまいます。(笑)

磯之丞はそれがお梶と知れ 一安心を致しますが、お鯛茶屋に居続ける事もあきらめ
一旦屋敷に帰ります・・・が。


佐賀右衛門は新たな策に お梶の父 義平次を使い こっぱの権 なまこの八と
共に 磯之丞に難儀をかぶせます。

それが2幕目。

磯之丞は、内本町道具屋において番頭伝八(猿弥さん)と義平次(橘三郎さん)
それに仲買弥市(国矢さん)に計られ 五十両を騙し取られてしまいます。



一方、団七は 先にこの問題の人物である 大鳥佐賀右衛門の中間とけんかして
和泉の牢へ入れられていたのを女房お梶の旧主 玉島兵太夫(磯之丞の父)
のとりなしで 御赦免になったことに感謝しております。


そのためにその倅である磯之丞の難儀を 御恩に報いるために 
なんとかとり持とうと苦心しております。  

琴浦を巡っての 大鳥佐賀右衛門と磯之丞との争い。


佐賀右衛門と義平次は あの手この手で磯之丞に難儀を吹っかけます。

義平次に騙されて 道具屋で五十両を奪われてしまう 磯之丞のアホ若旦那ぶり。



義平次は琴浦を大鳥佐賀右衛門の所へ送り届ければ 百両を貰う約束になっており、
釣船三婦のところから 三婦の女房おつぎを騙して 駕籠で連れて行こうとするのを
団七に長町で 追いつかれてしまいます。


そこで 逆に団七にだまされ 三十両で琴浦を返す事に致しますが、
元より団七にはそんな金は ありません


結局 お互いがお互いを愛想尽かししている間に もてあそばれた刀で 
思わず 団七は義平次を手にかけてしまいます。

一旦斬ってしまったら 親殺しは死罪と分かっている団七は 
義平次を斬り殺し とどめを刺します。


とまあ こう云った御芝居ですが、この複雑な人間関係や所業のあり様を
通常の三場だけで表現するには どうしても無理がございます。



いい所だけを見て頂いて あとのお芝居の流れは もうご存知ですよね? 

と云う 物語の持って行き方は 今では初めて歌舞伎をご覧になるお客様も
多い中では もう通用しないでしょうか? 


猿翁旦那が古典復活狂言で 通し上演にこだわられる訳は 
まさにこう云った理由からです。


今回の『夏祭浪花鑑』は それに比べればまだ分かりやすいかも知れませんが、
当時の生活状態や 地の利なども含め それでもやはり 
まだまだ難解な所もありますでしょうか。


難解だけに 何回もご観劇頂かないと お話がスムーズに分かって頂けないかも
知れません 

何回ものご観劇を お待ち申し上げております。

(そういうわけにはいかないでしょうが・・・笑
 でも、おそらくは 一度見て 関係性を把握されてもう一度見られると
 きっと 違った発見があると思います)


今日の写真は 通し上演となりますと そのお役も俄然 重要度が増します 
団七女房のお梶です。

演じておられるのはもちろん 上方歌舞伎の女形の若手のホープ 
中村壱太郎(なかむら かずたろう)さんです。


イメージ 1



おじい様は云わずと知れた 人間国宝 坂田藤十郎さんで お父様が中村翫雀さん

家柄も超サラブレット 

そして透き通った感じの女形の 壱太郎さん 

それなのにとっても気さくな 壱太郎さん


私は、本格的に共演させて頂くのは 今回が初めてですが、
なんとも素敵な魅力の持ち主で お梶の様なお役は、本当に難しいのですが 
それを軽々とこなしてしまわれる所は 才能の豊富さを感じます。 


上方歌舞伎において 楽しみな若手女形さんです。