昼の部『ヤマトタケル』上演前の口上の中で、猿之助さんは、
「ヤマトタケルは、古典となりました。」

と、云う事をおっしゃっておられます。


確かに、スーパー歌舞伎と古典歌舞伎の昼夜での同時上演と云う意味では、
『ヤマトタケル』も古典として並んだかも知れませんが、実はもうひとつ 
理由がございます。


スーパー歌舞伎の中で、再演 再再演を繰り返した演目は たくさんございますが、
『ヤマトタケル』以外の作品は、どこまで行っても猿翁旦那(三代目、猿之助)が
主人公で、それ以外の配役では 上演いたしておりません

(一応『三国志3』において猿翁旦那の代役→本役として 
 段治郎(現月乃助)さんが 勤められたことがございますが、
 これは特殊な例だと思います)



それに比べると、『ヤマトタケル』は、再演の折に、若手公演として 
主人公のヤマトタケルを中村信二郎さん(現、錦之助さん)が
演じられた事がございました。

その時の帝は猿翁旦那(三代目猿之助)でした。



その後、ヤマトタケルのお役は 右近さん 月乃助さんも演じられ
四代目猿之助さんを入れると 五人の方が演じられておられます。


そして帝のお役は、実川延若さんに始まり、猿翁旦那 段四郎旦那をはじめ 
河原崎権十郎さん 島田正吾さん 安井昌二さん 金田龍之介さん 猿弥さん
そして去年の襲名公演からは中車さん 
と 実に9人の方が演じておられます。


色んな方が 色んなお役を勤められる事 これが、古典となった所以です。


その他 熊襲兄弟 ヤイレポ ヤイラム兄弟 伊吹山の山神 姥神 
尾張の国造夫妻 諸々のお役も 様々な方が演じておられます。


スーパー歌舞伎で このように色んな方々が演じ分けられてきた作品は
この『ヤマトタケル』だけなのです。





その間には 琉球の使者や 走り水での亡霊 怪物 伊吹山の緑の鬼 等 
初演ではあったお役が スピーディーな展開の為に 
無くなってしまったものもございます。
 


また、猿之助さんの『ヤマトタケル』から始まった走水の花道に登場する
猿紫さんの船頭。 これは逆に 猿紫さんの為に書き加えられたお役です。



一つの役が いろんな方に演じられること、
そして 再演を重ねるたびに 作品自体が変化し続けているということ。

私は それこそが 「ヤマトタケルは 古典になった」といわれる
一番の理由ではないかと思います。


時代に合わせて 進化し続けること。
それが 古典になることではないでしょうか。


進み続けることこそが 古典。


ですが、もう一つ  注目して頂きたいことがございます。

これだけ様々な方が 演じられてきたお役の中で、おふたりだけ 
初演から変わらないお役がございます。


笑也さんのみやず姫と 走水の船頭のひとり 瀧二朗さんです。
この二役はもう上演回数900回を数えようかと云う 記録的なお役です(笑)


進むことも古典なれば、進み続ける作品の中で 保ち続けるこのお二人も
まさに「古典の中の古典」という 存在ではないでしょうか。



今度はいつ、この『ヤマトタケル』が上演される事でしょうか?

その時にはまた お役の上演回数更新と、新しい配役が 楽しみでございます。