今回、昼の部『毛抜』の私の万兵衛の後見は、喜猿さんにお願い致しております。


歌舞伎になぜ後見が必要かと申しますと、小道具を取り出したり、しまったり、

また衣裳の片肌を脱いだり 入れ直したり これらの作業、

大きな衣裳や、かつらをかぶったままでは、どうしてもひとりでは、

綺麗に出来ません


脱いだ後の着物が裏返ったりして 汚く見えるよりは 別に手助けをしてくれる人を

出した方が 作業がスムーズに運ぶと云う 歌舞伎独特の考え方!!



そしてお客様の、お約束事で これらの後見は舞台上に居りますが、

「見えない人ですよ!!」 と 「そこの所をお含み於き下さい。」

と云う 決まりのようなものがございます(笑)




江戸時代に拵えられたこの後見 所謂 黒衣(くろご)。

現在ではコンサートや 歌舞伎以外の所でも 大活躍です。


舞台転換に照明を暗くして スピーカーやマイクなどの器具の移動をしております。

先月 12月の『助太刀屋助六 外伝』でも お客様の見ている前で堂々と
舞台転換を 行っておりました。(笑)


もうそれだけ 歌舞伎の黒衣が ポピュラーになったと云う事ですね(笑)




江戸時代の人たちの中には 洒落た人も居りまして 年末の借金取りが

おしかけた時、黒衣を着て部屋にいても 「俺は居ませんよ!!」 と云うと、

「居ないんならしょうがないや!!」と 借金取りは しぶしぶ帰ったとか・・・(笑)


まあ、なんと粋な世界であることでしょうか!!!
世知辛い現在では そんな取り立て屋は 居りませんね!!


ですが、この後見 黒衣だけが後見ではございません



先も申しましたように 歌舞伎十八番『毛抜』では この後見も お化粧をして

かつらもかぶり、柿の裃に身を固めて(これは十八番物に限ります)

出演者の様な形をしております。


イメージ 1



写真は喜猿さんの 『毛抜』の後見姿。


歌舞伎十八番のような 衣裳もかつらも大仰なお芝居の中では 

黒衣は却って目立ちますので、あえて裃 かつらの後見が登場致します。

これを裃後見と申します。




この他には お化粧をしないで 素の状態で裃を着ただけの素の裃後見。


また裃を着ずに 紋付袴だけでの 着付け後見。

 

今回の『正札附根元草摺引』『吉野山』では、この着付け後見も登場致します。
 

そして 最後の『義経千本桜 四の切』では 同じ所作舞台にも関わらず、

黒衣が後見として登場 出演者を援助致しております。





このように 歌舞伎十八番や大きな舞踊 『道成寺』などの場合は 裃後見。

同じ舞踊でも 踊りに邪魔にならないに様にするときは『吉野山』のように着付け後見。


そして 『四の切』などのお芝居となると 黒衣。

イメージ 2



写真は 猿之助一門の市川澤五郎さん モデルにお願いしました。

彼は 猿翁旦那の忠信からの後見の最ベテランです。
 

決められた事だけでなく 舞台上で 万一のアクシデントが起こった時に、

この後見の技量が、大変重要なのです!! 



余談ですが、『奥州安達原』や舞踊『鷺娘』などの時は 黒ではなく白衣が
登場します。

これも白い舞台の上で 黒衣が動き回ると 却って目立つ云うことから 
場面に応じて白衣になりますが 役割は同じ後見です。

雪衣(ゆきこ)とも 雪後見とも申します。


またその他には ヤマトタケルの走水などに登場する 水色の衣を着た浪後見、
もございます。


また猿翁十種の『黒塚』は初期の頃は 素の裃後見が登場しておりましたが、

今では黒衣に変わり 舞踊ですが、お芝居的な要素をこわさない用に配慮された形が
取られるようになりました。  


これは珍しい部類ですね!!




最後に今月の『正札附根元草摺引』では、着付け後見

『毛抜』では裃後見 『吉野山』では着付け後見。


『操り三番叟』では裃後見。『四の切』では黒衣と 

実は 今月は後見衣裳のオンパレードです。


ここらの比較も楽しいのでは・・・・(笑) 

お芝居を見つつ、ちょっと後見にも目を向けてみてくださいね。