今月の『毛抜』の私、万兵衛は 衣裳の下に あるものを着ております。




(数日内は写真を掲載しておりましたが、
ある意味、あまり長く掲載致しますと、
形を真似されても、困りますので、
有効期限が、切れました。と、云う事に、させて下さいませ。)


「着肉(きにく)」と呼ばれるもので
肌色に染めてございます。




これは厳密には、衣裳では ございません 



歌舞伎的に分類致しますと、小裂(こぎれ)と云う 
部門に属しており、


所謂 さらしや手ぬぐい 具体的には
「豆絞り」や「やまみち」ですとか そう云う部門のものと同じ

・・・小裂と呼ばれるものです。
 



以前は河内さんと云う方が 個人で一手に引き受けて
居られました。


残念ながら数年前に 亡くなられ この部分の技術を
継がれる方が居られなかったために 
今では松竹衣裳部の 一部門の扱いになってしまいました。



それこそ、『弁天小僧』浜松屋の菊之助の弁天の刺青入りの着肉ですとか、

『夏祭浪花鑑』の団七九郎兵衛 又、『お祭り』
等の鳶頭の鮮やかな刺青の着肉。

もっと大変なのは鈴ヶ森などで 数多の雲助が着る 
筋彫りと云われる着肉まで。


これらも衣裳とは 違う部門で扱われております。





万兵衛の着肉は 先ほどの「弁天」や「団七」の
鮮やかな刺青の着肉ではなく どちらかと云うと 
やぼったい色の着肉。



先の「弁天」や「団七」の着肉は白塗りの色男の役で
所謂 座頭的役者が着ているものです。

布地もナイロンや昔は絹を 用いており 
薄地で体にぴったりフィットして 
印刷などではなく もちろん一枚一枚 手書きで、
着るその役者さんの寸法に合わせた
個人的な役者さんの物として その大きさに作られております。



一方、現在、私が万兵衛で着ております着肉は どちらかと云うと 
木綿で 肌の色は逆に 赤っぽく やぼったく見えるように 
作られております。




これは 例えば歌舞伎十八番の中の演目で 素肌が見えると 
却って生々しく見えてしまい 弾正や春道 春風 玄番 民部など云った 誇張した人物との見た目の差が出来てしまうために
素肌さえ衣裳のように 感じられるように という 独特の手法です。



もちろん 逆に『すし屋』のいがみの権太等 却って素肌を見せて 
リアル感を出す演出の歌舞伎もございます。




このように 着肉の効果も使い道も様々ですが、
私の今回しております役のように、「やぼったい印象」と云う意味では 
リアルなお芝居にも関わらず 夜の部の『小栗栖長兵衛』では 
主人公 中車さん扮する長兵衛も 右近さん扮する馬子の弥太八も 
この着肉を着ております。

『小栗判官』の中の浪七の場面では やはり 鬼瓦の胴八も
このようなお役です。


この様なお芝居などでは なまの素肌を見せるよりは やぼったく見えて
それでいて、どこか憎めない そんな役柄の人間が 
この着肉と云われる 衣裳ではない衣裳を 着ていると 
悪人であって悪人でない 親近感みたいなのがわくのでしょうか?(笑)



これから見られるお客様も なにか不自然ながらも 自然に
やぼったく見えるこの着肉。

なんとなく ご注目下さい。(笑)