明治座公演 昼の部の『傾城反魂香』

本来このお芝居は 上の巻 中の巻 下の巻とありまして、
今回、上演されているのは上の巻の さらにその一部だけなのです。


原作は近松門左衛門 

『曽根崎心中』の大あたりで、同じく遊里のお話をとの事で書かれたものです。

と書きましたら、恐らく大部分の方は あの『傾城反魂香』のどこが
遊里の話だろう?とお思いになる事だと思います。

それは 当然の事。



今私たちが 知っている「吃又」のお芝居と『”傾城”反魂香』

この話の内容とは おおよそ かけ離れたような外題に
お気づきになると思います。


外題となっている「傾城」は もちろん遊女の事。



例によって お家騒動や三角関係などが色々 糾えて参り 
複雑な 長いお芝居となっております。



ですが、上の巻の本来脇筋であったはずの 「土佐将監閑居の場」の
通称「吃又」の件が傑出した出来栄えの為に

独立して上演されることが多く、却ってそれ以外の場面は 
あまり上演されなくなってしまいました。



お芝居の中で土佐将監が 又平に云って聞かせる場面で、

「自分は禁中の絵師」と云います。
 

これは所謂 天皇に仕えている絵師でして、小栗宗丹と筆の争いから 

天皇の勘気に触れ 謹慎を命じられております。 


そして 小栗に謝れば すぐにも許されるだろうけれど、

本意と違って 土佐の名前を汚したくないと、勅勘の身に甘んじております。

ですが、この状態でございますので、当然収入は 途絶えてしまいます。



ここで 土佐将監 北の方夫婦の娘が、遊女として廓に身を投じます。

その娘を売った金子で生活をしている事になります。

(このあたりは 将監夫婦の会話に出て参りますので、
 是非、ちょっと注意して お聞きくださいませ)


本来はこの娘が 傾城になったことから ついた外題が『傾城反魂香』



将監夫婦の娘の 廓での名前は遠山。 

序幕に登場する狩野元信(門之助さん)とは

越前気比ノ浦で知り合い 将来の契りを結ぶ事となります。



その後 現在上演中の序幕「高嶋館」となり 元信は銀杏の前とも

祝言の約束をする 羽目になってしまいます。 


やがて銀杏の前は館を追われますが・・・。




一方 遊女の遠山は結局 落ちぶれて行き 

遣り手の「みや」(と云う名前)にまで身を崩し 

銀杏の前と元信が夫婦になる事を聞き 悲嘆にくれ 廓で死んでしまいます。



が 元信が香を焚くとその煙の中に遠山の姿が現れます。


後に元信は遠山が死んだ事を知りますが、

煙の中に死者を見出すお香の事を 中国の故事に倣いまして

『反魂香』と云います。



本来は主人公 傾城遠山の悲恋の物語が 今では単独の場面 

絵師の又平の物語のようになっております。



最後には高い官位を得た狩野元信が 土佐の将監の勅勘を解くために手を尽くし 

銀杏の前を将監の娘分として 傾城の道中姿で 祝言をあげると云う所で 

物語は 終わっております。

(銀杏の前の 恋心も最後には 叶ったのですね)



『傾城反魂香』 お芝居の内容を 掻い摘んでのご紹介ですが、
お分かり頂けましたでしょうか?




今日の写真は『傾城反魂香』の 重要人物 土佐の将監役の

市川寿猿さんに ご登場頂きました。(笑)

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このブログ もう何度も登場の寿猿さんですが、

御高齢にもかかわらず このお役の台詞の多さを 

完璧に覚えておられるのには 本当に感心致します。


これからも ますますお元気で 千穐楽まで 
色んな事を  教えて頂きたいと思います。



それにしても 寿猿さんと私の娘が 

実は この長い物語の主人公の一人だと云う事は 
物語を ご覧の皆様 ほとんどが ご存じないと思います。



元信の苦悩、将監夫婦の苦悩。

そう云ったものも 感じて頂けたら 幸いです。