コメント欄にご質問を ふたつ頂きました。


「おもだかやの歌舞伎役者さんの発声は 
 なにか訓練されているのでしょうか?」 と云った意味の事と

もうひとつは 「歌舞伎の役者さんはマイクを使わないと聞きましたが
先日 舞台上にマイクが数本 並んでいました。」 

と云った意味のご質問でした。



まず ひとつめのご質問ですが、歌舞伎役者はみなそれぞれ 
発声の勉強をしていると思います。 

これは個人的にですので 誰が何をどのように と云う事ではございません


人それぞれでして つきましては 私の場合をお知らせ致します。


何回か このブログでも書かせて頂きましたが、私は台詞の稽古として 
常磐津を 習っております。


習っていると申しましても 現在では公演が忙しく 
なかなかお稽古に伺えないのも 事実ですが・・・。


ここで少し 整理させて頂きます。 

ふたつめのご質問と 弱冠かぶるのですが、歌舞伎の役者は マイクを使いません 


江戸時代 明治に書かれたお芝居がほとんどです。  

もちろん その当時にはマイクやスピーカーと云う物は ございません

江戸時代からの発声法として 荒事の台詞回しがございます。



これは 抑揚と強弱をつけた台詞で 
お客様の耳を鋭敏に聴かせる作用がございます。


少し声が小さくなりますと 皆様の耳は逆に聞こうと云う意思が 
耳に働きます。


そこへ強く台詞を云う事によって 更にお客様に聞きやすくなります。



義太夫や常磐津と云った浄瑠璃に これらの極意がございます。




吸う息を鼻から大きく取り(口ではありません) 口から吐く息の所で

その息に載せて台詞を申しますと 楽に吐く息の流れにのって 

台詞が遠くまで届きます。




必然的に 台詞のどこで息を吸い どこまでの台詞を一気に話すか・・・。

そのメリハリの良し悪しが お客様の快感不快感になります。


もちろん 技術のいる事でございます。
 


新橋演舞場の客席数はおよそ1300人 

その方々が舞台に向いて座っておられます。

1300人の吐く息は舞台に向かってくるのです。


そのお客様の吐く息の 力に負けず舞台から 3階客席の奥まで 
台詞の言葉をとどかすのは、容易な事ではございません



ここにテレビや映画の俳優さんとの 大きな違いでございます。
(テレビや映画は画面の見えない部分に 必ずマイクがございます。)
囁くセリフを まさに「囁いて」も ちゃんとマイクが拾ってくれます。


歌舞伎では 本当に囁いてしまいますと、舞台上の役者と
前の方のお客様にしか 聞こえません。

囁くセリフでも 3階まで届かせるのが 歌舞伎なのです。



また 普通の舞台でも ミュージカルは言うに及ばず、
現代演劇でも 普通にマイクを使っております。

劇場の規模から申しますと、歌舞伎ならではではないでしょうか。

まして歌舞伎の 公演数は最低でも1ヶ月 
毎日 無理な声を出すと すぐに声が出なくなってしまいます。
(私たちは『調子をやる』 と申しますが・・・)


芸歴ウン十年(笑)の私の場合でも 女形と立役で声を張り上げる役を
同じ月に致しますと どうしても 途中に危なくなりそうに
なってしまいます。

全く出なくなる訳には行きませんので、そのあたりは ぎりぎりのラインを
低空飛行しながらも 舞台を勤めあげます。



そして先にも書きましたが 歌舞伎の台詞は「謡うよう」に 申します。


これは何も 音符に載せて歌うのではなく お客様の耳触りにならない様な 
台詞回しを「謡う」と申します。


以前にも書かせて頂きましたが、30数年前の上方での勉強会 
『若鮎の会』の私の「吉野山」の忠信を ビデオにして 
おもだか会のお客様に見て頂いたところ 

「延夫さん あなた唄は何も習ってないね!! 台詞が現代劇よ!!」

と云われましたが、その時に私は 何のことかわかりませんでした。


それでその方のご紹介で すぐにその方も習っておられる 
現在の常磐津の私の師匠 常磐津文字由喜先生に入門致しました。

かれこれ30年以上も前の事です。



今ではその意味が よくわかり 文字由喜先生と共に 
この方に感謝 感謝でございます。

もちろんこの方も常磐津の名執さんでおられます。


台詞のメリハリ、そして台詞を「謡う」


私の経験での発声の事ですが、御答えになりましたでしょうか?




もうひとつのマイクの件でございますが、 
先月から今月にかけて 襲名公演の演目や 襲名発表からこのかた 
ドキュメンタリーの番組等の取材の為に不定期での 舞台収録がございます。


これらは特別番組で放送される予定です。


また、昨日も衛星劇場での『ヤマトタケル』の舞台収録がございまして、
今月末にも もう放送予定でございます。


その他 先月の『小栗栖の長兵衛』『口上』『義経千本桜 四の切』

また今月の『将軍江戸を去る』『口上』『黒塚』『楼門五三桐』等、

NHKの収録がございまして、舞台上のマイクはおそらく その為のものかと?


ちょうどご質問のマイクが置いてあった日が テスト収録か 本番かの日に
あたっていたのではないかと思います。

一階の後ろの方には カメラらしきものも あったとも聞きました。



音響さんの事に関しましては また長くなると思いますので、
改めまして ご紹介させて頂きます。