昨日は舞台空間の事について 書かせて頂きました。

今日はその続きとなりますが、お付き合い下さい(笑)



計測法として現在、一般ではメートル法が使われております。

にも関わらず、舞台ではなぜ まだ尺貫法が使われているのでしょうか?


これはおそらく 住宅建築などの大工さんたちにも
同じ事が云えるかと思います。



尺とは? 

成人男子のおよそ1歩分だと云われております。
(もちろん 現代ではございませんので 身長も違います)


1尺 およそ30センチメートル。

6歩分で6尺 これが1間(いっけん)。

本来の畳 縦の長さですが 畳1枚は3尺×6尺(1間) 

ですから1間×1間 これが所謂 1坪となり これは2畳間にあたります。


ややこしいですね。
では 少し 現代に当てはめてみましょう(笑)

一間(いっけん)が 今でも 使われている例は、
あえて申しますなら 押し入れ。

現在は 京間、江戸間、マンションの物と 違いはあります。

もし、マンションなどで 6畳の和室にいたら・・・
そして そこに 押し入れがあったら・・・
ちょっと見てみてください。

襖が ちょうど 畳の短いほうの幅と
合っていたりしませんでしょうか?
襖二枚で ちょうど 畳の長い方と 同じ長さではないですか?


まさに今 私が ブログを書いている 我が家がそれなのですが・・・
襖三枚、畳の長尺と短尺が ぴったり 部屋の幅になっております。

(最もマンションですので 家の一間分にあたるのは
 170センチくらいになっております)



襖二枚分(=畳の長い方=短い方二つ分)が「一間」なのです。

現在でも「二間(にけん)間口(まぐち)の店」「一間の押し入れ」とか 
注意していると 時々テレビで聞く事も あるのではないかと思います。

ちなみに 京都の三十三間堂。
この「間」も 同じ意味です。


話がそれましたね(笑)

舞台の寸法もやはりここから出発致しており、
これを基準に 舞台の大道具は造られております。



住宅と違って、造れば何年も壊さないのではなく 
次の場面になると すぐさま撤去しなければなりません 

また 毎日 同じものを造らなければなりません


その時に力を発揮致しますのが『箱馬』と呼ばれる 土台の木の箱。



写真がその箱馬です。


イメージ 1



高さは1尺7寸。 縦6寸、横1尺のこの箱。


実に多彩な使われ方を致します。 

ま 積み木を想像して頂ければ 分かりやすいかと思いますが、

箱馬の組み合わせによって 台座を造り 
「平台」と云われる4寸ある板状の台を上に載せたり、 
さらに「上敷」と云われるゴザを敷いたり。

これを組み合わせることで
舞台上にいろんなおうちが 出来て参ります。


庶民の家 武士の家 御殿 その他いろいろ。


舞台に「上敷」だけを敷いたおうちは
『仮名手本忠臣蔵 六段目 勘平腹切りの場』で登場します。
勘平は浪人となりましたので 武士ではなく 与市兵衛の庶民のうちに おります。
  


また箱馬の1尺の高さに「平台」を乗せますと1尺4寸。 
少し高い「おうち」が出来上がります。

これは「常足」と呼ばれる『義経千本桜』「渡海屋」や「すし屋」の様な
場面で使われる高さとなります。

前には上敷きが敷かれ 階段を一段登る構造です。
まだ 庶民の高さです。



箱馬1尺7寸の高さに 平台を乗せると2尺1寸。 

これは「中足」と呼ばれる高さの屋台となり
今月の『将軍江戸を去る』の上野寛永寺の場面がそうです。 

イメージ 2



縁側が「中足」ですので2尺1寸。 
座敷はさらに「平台」を載せて4寸高い舞台です。

写真で見てみて下さい。



そして 例えば先月の『四の切』は 御殿の高さと云われて 
2尺8寸の「高足」となり、所謂 高二重と呼ばれております。



 
ところで、常足が「1尺4寸」中足が「2尺1寸」高足が「2尺8寸」 
お気づきでしょうか?すべて7の倍数となっております。

ちなみに 階段一段は7寸(階段については また別の折にでも) 

これは成人が普通に段をあがる時に支障のない高さ 
また女形が着物で上がっても あまり踝までも見えず 
自然に 見える高さであります。


驚く事に 舞台は 「箱馬」と「平台」で出来て居ると云っていいのです。
(高足は ちょっと違う部分がありますが・・・)
だから 簡単に作れて 簡単に 撤収できるのです。




メートル法だけの計測では計られない、日本古来の文化の計測法が 
やはり舞台を支配していると云っても 過言ではないと思います。