今月出ております『暫』

正直申しまして このお芝居は なんとも不思議なお話。

実は、ご覧のお客様の中にも 正確にどんな筋で・・・と云うのが
分からないで 見てられる方も いらっしゃるのではないでしょうか(笑


このお芝居は どちらかと云いますと 様式美を楽しんで頂くもの。
(もちろん 筋を追いながらの方が 楽しめますが。)

歌舞伎の要素が本当にたくさん詰まっております。




まずは 見た目。

海老蔵さんの 鎌倉権五郎は筋隈をとって、荒事の典型的な姿。

我當さんの 清原武衡は青い隈の公家悪。

「腹出し」と云われる 赤っ面の成田五郎達。

猿弥さんの 道化隈をとった通称「鯰坊主」の鹿島入道震斎は
典型的な道化方。


それに加えて、進之介さんは二枚目の典型「加茂次郎」、
吉弥さんの赤姫の「桂の前」もいます。


また、私たちの 一応(笑)四天王は 以前にも書かせて頂きましたように
典型的な 「居並びの侍」の格好をしております。
鬘は 何やら 不思議ですが・・・

奴にも色奴 花見奴 中間 その他色々ございまして 
今回の奴は舞踊の花見奴に近いでしょうか? 

数ある奴の中でも 一番 派手で綺麗で 奴の典型的なモノと
云っていいのではないでしょうか。

十八番ものでは『外郎売』にも登場いたします。



仕丁(じちょう)も あの白と緑の色合いで出て参ります。
『菅原伝授手習鑑』や『一條大蔵譚』でも 同じように出てきますね。


まるで、歌舞伎の役柄の見本帳の様な そんな舞台です。


どうして このような 見本帳の様な舞台なのでしょうか?





これは、この演目が 江戸の11月の顔見世興行で上演される
まさに「顔見せ」の役割を持っていたからなのです。

「顔」を「見せる」から 顔見せ。
まさに 見本帳。



今現在 顔見世と申しますと どちらかと申しますと
12月に行われております 京都の顔見世のイメージが強いですが、
江戸時代は 江戸では11月に行われておりました。


また、江戸時代では 歌舞伎役者は 一年ごとの座付きの契約。
例えば 今年は 中村座ですよ~とか 市村座ですよ~
となりますと ずっと 同じ座組みで 同じ劇場で芝居をしました。
(夏などは 巡業等もあったようですが)


ですから、「顔見せ」では
「この一年は このメンバーで やって行きます」と云う風に
紹介する演目だったのですね。




なんだか、毎月違った劇場で、違った顔ぶれで 違った人の隣で
化粧をしている 現在の私たちからすると 想像できないのですが、

まあ、それはそれで 千穐楽の荷物とかを考えると・・・
いいのでしょうか??

あはは、分かりません。




ちょっと 話がそれてしまいましたが、
そう云った意味で 今年は この顔触れで 一年やりますよ~
という、本当に「顔見せ」の意味で 演じられていたのが
この『暫』なのです。



現在の「顔見世興行」は 私たちは劇場付きの契約ではありませんので
本来の意味とは 違っております。

10月の名古屋御園座
11月の歌舞伎座(現在は新橋演舞場)
12月の京都南座 

でそれぞれ 「顔見世」として興業が行われております。

御園座と 南座では 独特の「まねき」があがりますね。


この形式では 出ようと思ったら・・・
一年で 3度の顔見世に出演する事も・・・出来るのです。

そう云った経験のある人、いるのかなあ??


いるかもしれませんね。聞いてみましょうか。