新橋演舞場 花形歌舞伎公演 今日の舞台を無事に終えまして、
後1日を残すのみとなりました。


亀治郎さん 獅童さん 愛之助さん 他 ともども
久方ぶりに 終わるのが本当に名残惜しい 楽しい公演でした。



明日のこの時間は もう千穐楽の御礼のブログとなります事でしょう(笑)



今日は来月の 博多座公演の演目で 私が出演している 台本を
ブログに掲載させて頂きます。


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写真 左から夜の部の 『楊貴妃』 昼の部の最後『与話情浮名横櫛』 
そして一番右が『連獅子』



ここでご注目 『連獅子』の台本 

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実はこれは台本とは申しません


「書き抜き」と申します。

中は ご覧の通り。


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これ、実は私の台詞しか書かれてございません

他の方の台詞(と申しましても 今回は弘太郎さん一人ですが)
は 一切書かれていないものなのです。



不思議に思われますでしょうが 
私が若いころ すべての歌舞伎演目に対しまして
このような書き抜きが 当たり前でした。


そして三階(名題下の名称)におりました頃 
台詞がない役者は 表紙だけの演目が書かれている横に 

例えば今月ですと 『當世流小栗判官』 「漁師大勢 うち 五」 
とか書かれているだけなのです。

(つまり 表紙の一枚しかない と云う事なのです・笑)

ここで、「五」と云うのはどちらかと云うと
「大勢いるうちの一人」と云う意味です。

(一応 並び順で番号はありますが・・笑)


それでも「○○ うち 一」という役が来て、
皆々台詞の1番が来たときなどは 狂喜乱舞?しました(笑)
 
例えば

「浪七!!(一)」 「やらぬ!!(皆々)」と書かかれてあり 



ひとり 芯(一)の台詞が 表紙の後に 一枚ぺらっとついていたんです。

この台詞のある書き抜き(と云っても 表紙+一枚くらいですが・・・)
をもらってうれしかった思い出がございます。



名題下まで台本が行き渡るようになったのは 猿之助旦那の着眼点。

猿之助歌舞伎にとって 何よりも大切だったのは

「今 どこをやっているのか」

それを 出演者が全員が 知っていなくては 事故につながる!!

「全員に台本を渡して!!」 と 会社に云った鶴の一声!! 

それから全員に台本が配られるようになり 今がございます。


が、今でもこの書き抜きは 一部では 残っております。
(所謂 台本の方が 多くなっている気が致しますが・・・)



では なぜ今 この『連獅子』の台本が書き抜きなのでしょう?

なんででしょう???実は よくわかりません(笑)

私は 何度か『連獅子』の宗論をしておりますが、
実は 本公演では 初めてなのです。



この「書き抜き」(和紙)が配られると云う事は 本来は江戸時代からの伝承。


コピーや印刷がままならない時代 狂言作者さんが 出演する人達 一人一人に対して 

配役が決定してから その手書きの「上演台本」の全部を 全員に 配るには 

膨大な量を 短い時間に 筆で書かねばならず 実質的に不可能。

(例えば 仮名手本忠臣蔵や義経千本桜・・・等々) 



そこで その役を演じる人だけに その台詞だけを 書いて渡す事になりました。
これが「書き抜き」なんです。

(もちろん 狂言作者さんは御自分で書かれた色んな 台本を個人で持っておられ
 それを 抜粋する訳です。)

もしそこで 「この台詞 自分は誰の後に云うのですか?」 

などと 狂言作者に聞こうものなら 


「馬鹿野郎!! おまえは 今までこの芝居を 見ていなかったのか!! 

 何回もやっている この狂言。

 どこで台詞を言うか 分からないなら この役は 取り上げだ!!

 誰かにやらせる!!」などと云われかねず、

更に 二度と その役は回ってきません(そう云う時代でした・・笑)


そう云った名残が 何回も出ている演目。


特に猿之助一門以外のお芝居では 今でもそのしきたりが残っております。 



ですから 今回の『連獅子』の書き抜き 私では懐かしい思いも 致します。


そして今回のこの書き抜き 中の台詞が 弘太郎くんと逆になっているところが
ございました。(笑)



こんな時は 私が狂言作者に 逆に

「ここの台詞が逆になっているよ!! こんな事も知らないのか!!」と

言いたいところですね(笑)

ま、言いませんが・・・(笑)
こちらが わかっていたら それでいいのです。
そのままやってしまうと 私も 同罪?です。


何にもせよ 今でも 一部ではありますが 書き抜きを使っている 
この歌舞伎の世界です。

 
私自身は 今ではあまりこの 書き抜きには 接しませんが・・・

やはり いつもの台本とは 違った意味で どこか 気が引き締まるような
不思議な気持ちが致します。


が、この「書き抜き」・・・保存には いつもよりも気を使います。

クリアファイルが 必要ですね(笑)