今月の演目 『吉野山』では、春  『黒塚』では、秋。

舞台にて この雰囲気 情緒を醸し出してくれる物に
「擬音(ぎおん)」がございます。


吉野山では うぐいす。 黒塚では 秋虫。 


これらの擬音はすべて 舞台上 舞台袖で何人かの役者が担当いたします。
鳴り物さんではないのです。


スーパー歌舞伎や 先月の『暗闇の丑松』の特殊な雨の音などは
効果音として テープに録音した物を流しますが 
ほとんどの歌舞伎の舞台では その場で 擬音を担当いたします。


7月の松竹座の「米屋」の雨音では 雨うちわを紹介致しました。


今回の擬音には笛を使います。   

そのものズバリ!! 

『吉野山』の笛は 「うぐいす笛」と云い 
『黒塚』の笛は、「虫笛」と呼ばれております。




うぐいすは ひとりで担当いたしますが 虫笛は 
上下両袖と舞台裏に 合計6人。


お芝居の進行に合わせて 間よく 吹かなくてはなりません 


静御前の道行 清元の唄に合わせてのうぐいすは 
「うぐいすの谷渡り」と言われます。


(私 数年前 京都の南座の折 朝方にバイクで 比叡山へでかけた時に
 実際 この うぐいすの谷渡りを ナマで聞いた事がございます。
 実にすがすがしい声です。)


そして 黒塚の序幕  

岩手の花道の入りの時 一瞬 鬼の本性を現す際、
虫の声が途切れます。


このあたりは、ただの音を出すという擬音ではなく 
役者の心得が必要とされます。




今日の写真は その

うぐいすの笛と 

イメージ 1


虫笛です。

イメージ 2


一応 会社が用意をしてくれるのですが、 
うぐいすの白い方は 個人の物です。 

やはりこちらの方が 声の伸びも違い 使いやすいそうです。




余談ですが だいぶ昔の事、 ある役者さんから聞きました。



T二朗さん(伏字になってませんね・笑)が自宅にて 
うぐいす笛の稽古をしていたそうです。

すると突然 隣のおうちの窓があいて 旦那さんが奥さんに 

「おい!! うぐいすだよ こんな都会にうぐいすがいるよ!!」 


と 叫ばれたとか。。。。



それ以来 自宅ではうぐいす笛の 御稽古はできなくなったそうです(笑)


舞台でも、桜・ススキと云った視覚的な季節感とともに、
いえ、もしかしたら それ以上に 聴覚的な季節感を
感じさせてくれるこの擬音。

意識していないと 聞き逃してしまうかもしれません。

が、是非聞いて頂きたいと思います。