昼の部の『吉野山』は 現在、京都南座でも上演しており 

先月の新橋演舞場から数えますと 三座での競演となっている訳です。
 

そして先月 亀治郎さんの会 国立劇場でも上演されましたから 

厳密に云うと四座競演ですね。(笑)



演舞場 南座の忠信は海老蔵さん 新歌舞伎座での忠信は右近さん 
国立は亀治郎さん


そして道行の静御前がそれぞれに違い 演舞場では七之助さん 
国立では芝雀さん 南座では玉三郎さん 新歌舞伎座では笑三郎さん 

と 個性がそれぞれ違い興味深い配役です。



この『吉野山』の演出 様々なやり方がございまして 
現在 海老蔵さんは先月の演舞場でのやり方
義太夫が主体の舞台です。


鳥居前からの通しなので 早見藤太 花四天は登場せずに 
2人だけの舞踊です。

(本来 鳥居前と吉野山 双方に道化が出る場合は 
 鳥居前が笹目忠太 吉野山が早見藤太となりますが 
 今回は鳥居前に早見藤太として 登場いたします。


これは通して 同じ役者が演じる場合は 
 双方ともに早見藤太ですが 半不精で 片方だけの場合
 吉野山の藤太の方が 上の役者が演じる事になっております。 
 
 所謂 忠信の役者と同格か 上の座頭格の役者が
 ご馳走で出たり するときは 吉野山だけとなります。 

 ですから 早見藤太の ワンランク下の名前 
 笹目忠太となる訳です。)


新歌舞伎座の『吉野山』は物語は 義太夫ですが 
その前後は清元での舞踊となります。


ここで 清元と義太夫での違いを少々。 


海老蔵さんの忠信 義太夫ですと 肌脱ぎをした時の襦袢が赤です。 
それに源氏車を散らしてございます。


着付けの場合 着付けに源氏車を散らしてあると 
襦袢は大きなひとつの源氏車の半円が 肩から胸のあたりを占めます。 

これに反して 着付けの裾に大きな源氏車が来る場合は
赤の襦袢には 小さい源氏車がたくさん散らしてございます。

(もちろん例外の両方 小さい源氏車の時もございますが・・・)



今回の右近さんの清元の場合。 

曲と三味線のイメージから 襦袢の色は浅葱で 
着付け 襦袢共に小さい 源氏車が散らしてあります。


そしてかつらも 四の切の忠信の頭に近い 
三本車 前茶揃と云う 鬘ですが
(このかつらは おもだか屋だけが用いられる かつらでして 
 他の方が吉野山を踊られる時は 使用できません) 

海老蔵さんの鬘は 義太夫に合わせて 強く 

五本車鬢(くるまびん)
[生え際を油で固めて 五本の髪の毛を 並べております。]となります。


そして 物語で使用する 扇も 
義太夫の場合は軍扇の金地に日の丸ですが、
清元の場合は 金地に砂子切箔チラシの 扇子です。


最近 義太夫での時もこの扇子を使う事が多くなりました。
 


それぞれが その時の好みに合わせて 
『吉野山』が踊られる訳ですが この違いもおわかりなると
面白いかと思います。 今日は 簡単な違いを並べてみました。