今日 中日劇場『四谷怪談忠臣蔵』の初日の幕が開きました。
昼の部 1回公演。



初日につき カーテンコールが行われ 猿之助旦那も特別出演。  

大勢のお客さまで熱気に包まれました。

ありがとうございました。 
千秋楽まで、なにとぞ よろしくお願い申し上げます。




さて昨日、ブログの愛読者であられる 茨城県のYさんより

劇場へお手紙を頂戴いたしました。 



内容は、先日のブログ『豆知識』の中で「菅原伝授手習鑑」の三つ子の三兄弟。

私は長男は松王丸と 書かせて頂きましたが Yさんは、

「いろんな文献で長男は梅王丸と書かれております。どちらが正しいのですか?」との

ご質問でございました。



私の認識および書き方が行き届かず 誤解をお招きした事 
先にお詫びを申し上げます。


現在手元の資料をいくつか 調べましたところ、
正直申しまして「松王丸が長男である」と断言しております物は
みつけられませんでした。



私が 聞きおぼえていた事では、やはり歌舞伎では 松王丸の方が
役としては重く 扱われている事や、 
座頭格の方が されることから「総領の心得で」と教わったので、
完全に 「松王=長男格」という風に 思っておりました。



「名作歌舞伎全集」の戸板康二さんの解説中でも
はっきりとした 兄弟の順番は書かれておりません。



「三つ子であるという事実は、俳優として考えていなければ
ならない」とした上で、

「「車引」だけの演出では、松王丸を総領、桜丸を末子とする考え方も
一方には必要なので、それらが交錯して、この芝居を複雑にしている」


とございました。


このあたりでも、私自身にも混乱があったのだと思います。




では。。。



「梅王丸=長男」というのは どこからでしょうか?



これは、『菅原伝授手習鑑』よりもさらに前に近松門左衛門によりかかれた
『天神記』という作品では、三つ子という設定はなく
梅王丸が長男となっております。 

三つ子と云う設定は 作者の三人 並木千柳 三好松洛 竹田出雲により
加えられました。



正直に申しまして 『菅原伝授手習鑑』では、
正確にどちらが兄か?と云う文面は出てまいりません 




確かに そりゃそうなのですが・・・最初の作品とは違って
「三つ子」なんですから・・・・




これは以前にも 書かせて頂きましたが 

あくまでも憶測ですが すべての段を三人で書いたわけではなく 

恐らく 何段目~何段目を一人が書き それを 通しとして繋げたと見られます。




このように恐らくは その段その段で それぞれが

梅王丸を長男として描いたり 松王丸を長男として描いたりと

したのではないかと思われます。 




全段を 誰かが長男と描くには 少し無理があるからです。 

「賀の祝」松王丸が、わざと白大夫の怒りを買い 

勘当されるように仕向けるのは 総領の長男としてでないと意味がないのです。




それぞれのご主人 藤原時平(ふじわらのしへい)に松王丸  

菅丞相(かんしょうじょう)に梅王丸  斎世親王(ときよしんのう)に桜丸



たまたま この三人が敵対関係となり時平が権力を握りますが 

松王丸とて菅丞相に仕えたかったのは 寺子屋の段に来て 
初めてその心情を伝えます。

 


斎世親王の失脚の原因を作ってしまった 桜丸   そして その死。 

大宰府に流された菅丞相を追い 自ら九州へ赴く 梅王丸。


松王丸が詠う
「梅は飛び 桜は枯るる 世の中に なにとて松の つれなかるらん」

と・・




そしてわが子 小太郎を身替りにして菅秀才を助けるのは 

勘当された総領である松王丸でないと お芝居の場合 

哀れさが浮き彫りにされないのです。  


   
 
恐らく 寺子屋の段では松王丸が 長男格として書かれているのではないでしょうか?



これではご質問のお答には ならないかも知れませんが 

私はこのように理解を致しております。





余談ですが 20代のころ 梅王松王のどちらが長男か?議論を故猿十郎と

熱く交わした事がございました。

その時、私は梅王丸 長男説でした。 猿十郎は松王丸 長男説で 

これは国立劇場歌舞伎養成研修所で 故坂東八重之助さん(人間国宝)より

聞いた話として 「松王=長男=勘当説」という先の話をしてくれたのです。




私 その時になるほどと思い 歌舞伎では松王丸 長男説の方が納得がいくなあ。

と 思った次第でございます。


案外、演じている役者側では 松王丸長男説が 多いのではないでしょうか?
と ふと思いました。


ずるい言い方かも知れませんが 役の大きさ 場面場面での性根のあり方は 

その時によって 松王丸 梅王丸 

どちらが長男であってもいいのかも知れません  




Yさん このようなお答でよろしいでしょうか?  


なにか中途半端なお答のようで 申し訳ないのですが 

私も 改めまして よい勉強になりました。 




ありがとうございました。  



前回の兄弟についてのブログ、内容を変更した方がいいのかと 迷いましたが、
そのままにさせていただこうと思います。