今日が終わって あと2日になりました。

今回 新橋演舞場の公演とはいえ、私のいる楽屋はある特殊な場所でした。


広いワンフロアーに 半分が河東節の方々、
そして名題十数人、名題下十数人 子役さん十数人。

その横に 衣装を着つける場所

そして 外れた一角に 床山さんの場所がございました。



地方巡業の会議室などを 借りたような 今回の公演楽屋でございましたが
歌舞伎座が無くなると やはり 不自由なものですね。



今月、私は『助六』の男伊達の出番の前に 
必ず 意休の刀を持つ袱紗にアイロンをかけるのですが、

今回のそのワンフロアーの衣装さんのところには、
特設のため、アイロンの常備がございません。



そこで、アイロンを使おうと思いますと、楽屋を出て、はるか先、
本当に エレベーターを使い 
かなりの距離(笑・普段の楽屋内に比べての意味です)

本来の衣装部屋まで いかなくてはなりません。





それは ちょっと無理ですので、床山さんにお願いして、
床山さんが かつらを結う時に使う「こて」を
特別に 毎日拝借しておりました。



ここにいる床山さん(床山君と呼びましょうか)。

かわいそうに 何十人もいる立役の俳優さんのために、
一人だけ、島流しのような状態で そこにいるわけです。


朝から晩まで・・・



役者は それこそ離れ小島に何人もおりますが、出番は 交互。
入れ替わりはございます。


朝から晩まで居続けの人は おりません。

床山と云う 何人もいる中での 一人島流し状態は・・・
床山君大変だと思います・・・




ちょっと 専門的と申しますか、内輪と申しますか・・・
床山さんは 3~4つの会社が入っておりまして 
役者により、住み分けが分かれております。


もちろん 立役と 女形は完全に分かれております。

今回の床山君は 立役を専門にしております。

(女形の床山さんは 助六の出番が同時なので 本来の楽屋から出張して参ります。)



その立役専門の 床山君ですが・・・


私が 袱紗にアイロンを当てに 特設床山部屋に通います時間、
ちょうど舞台では「熊谷陣屋」が行われているのですが・・・


毎日毎日、その時間に床山君、いつも同じ事をしております。



それは・・・


本来は 立役の床山であります、床山君。

なぜか 毎日 女形のかつらの「銀杏返し」を結っているのです。


おそらく、女形のかつらの練習をしているのだなと思って
毎日見ておりました。


でも、銀杏返しと言いますと 結構複雑で 難しいのですよね。
(すみません、画像が準備できませんでしたので 実際には
 気になる方は 検索してみて下さい)

初日が開いて 三週間。



今日、聞いてみました。

「どうして、初歩の女形の練習としても 銀杏返しをしているの??
 女形の練習だったら 丸髷とか つぶしとかのほうが
 簡単じゃないの??」



と・・・・




 彼曰く


「書道の基本の練習台は”永”という文字らしいですね。
 すべての要素が詰まっているとか。


 女形のかつらの 結い方の要素が詰まっているのが
 この 銀杏返し なのです。」


と。



なるほど!!!!!




と 私、長年この世界にいたのにもかかわらず、
目からうろこ 目が点 状態でした。



しかも、毎日毎日 練習用の「頭」を 結っては解き、解いては結い を
していたのです。


私が 見る時間には 結いあがっておりましたので
まさか 毎日結っているとは 思いませんでした。



二十歳そこそこの彼が フロアの片隅で あいている時間に
地道に頑張ってる姿に 職人芸の一端を 垣間見ました。



これから 歌舞伎を支えていくであろう 裏方さん、
なんと 頼もしい事でしょうか!!!


今月の楽屋 不便だ不便だと思っておりましたが、
普段は 決して見る事の出来ないものをみられて 
よかったかなと思います。

歌舞伎の未来は 明るい! でしょうか。

ちょっと いい話 でした。