歌舞伎にはよく掛け言葉なる物が出て参ります。


これは文面やセリフの上だけを見ると何でもない言葉(セリフ)ですが、
その奥を読みとると深い意味が込められている と言うものです。


昼の部 ご覧になられた方はお分かりだと思いますが、
すし屋で権太に助けられた維盛が頼朝の陣羽織に書かれてある
小野小町の歌の最後の一節『内やゆかしき』に重ねて
もう一度、『内ぞゆかしき』

と強調されて書かれてあるのを見て
陣羽織の中をあらためて(切り裂いてみて)、袈裟念珠を見つけます。


これで 頼朝から「命を助けるから出家せよ」 との奥の意味を悟ります。


維盛の首は渡される前から偽物である。
と、最初から分かっていたのですね。

この舞台以前、普通では死罪となるところの頼朝を
平重盛が助け 伊東へ流罪と減刑します。


お芝居では、そのお返しとして、礼を尽くして、史実にはない、
今度は頼朝が重盛の息子である維盛を助ける。と、いった情けが書かれております。



また、夜の部の封印切りでも、横領したお金ともしらずに
身請けされた梅川と忠兵衛に、おえんや仲居 太鼓持ちが
お祝いの言葉を述べます。

「おめでたいと、申そうか。お名残りおしいと、申そうか。
 ”千日”云うても尽きぬ事。」

そして忠兵衛が「その”千日”が、肝先へ・・・」

浄瑠璃が(焼き場の土と~)と続きます。



この千日の意味。お分かりでしょうか?

場所は言うまでもなく、大阪ミナミの千日前、
今はビックカメラのある所。
その昔はプランタンであり、その前は千日デパート。
さらにその前は大阪歌舞伎座。(以前このブログでも書かせて頂きました)

さらにさらにその前は・・・

江戸時代 実はあそこは刑場だったのです。

賑やかな道頓堀から筋ひとつ外れた千日は 森閑としたはずれの場所。
罪人たちの首をはねる死刑場。

現代では賑やか過ぎて考えられない事ですが、ビルなどを建築する際、
地下を掘れば 未だに人骨が大量に出てくるそうです。


忠兵衛のセリフの意味は、太鼓持ちたちが言ったお祝いの言葉の奥に
八右衛門の残した「お前のこの首は胴については、いぬぞよ!」の死刑が
示唆されている恐怖をあらわしております。



このように歌舞伎にはあらゆる所に色んな掛け言葉が含まれております。
熊谷陣屋などはそれがテーマともなっている端的な例ですね。

聞き流してしまうと なんでもない セリフが 実は大きな意味を
内包している・・・そう云った言葉を 探す楽しみもございます。

皆様も色んなお芝居の色んな懸詞を探して見て下さい。

もし、気になる言葉がございましたら、お気軽にご質問ください。
わかる限りで お答えさせて頂きます。