今日 鳥居前の出番のあいだで いつものように玉三郎さんのお部屋へ 朝のご挨拶に伺いました。

「おはようございます。」 「おはよう~。」と 玉三郎さんも挨拶を返してくださり その後 

「延夫ちゃん (私を本名で呼ばれ) ここんとこの夜叉ヶ池の鯉七 漠然としてるよ!!」と
ご指摘を受け ドキッ!!として 伺っていると

「台詞が 漠然としてて 駅の案内みたいになってて感情が入っていない!! 
もう少し 気! を入れて 台詞を言うようにね。」と ご教授頂きました。 

鎧を着て暑いのにも関わらず 冷汗が流れ 返す言葉もございませんでした・・・・

「はい 申し訳ございません ありがとうございました。」と お部屋を失礼致しました。


言い訳を申し上げるつもりはございません

泉鏡花の台詞は て・に・を・は (~して ~に ~を ~は と云う 主語動詞のつながり)  が
まったくつながらない言葉が 多くあります。

これは役者にとっては 大変覚えにくく また 長台詞も 一旦 止まって考えてしまうと
次の台詞が 全然出てきません 非常に 難しいのです。


舞台稽古、初日近辺は まだ台詞も完全に頭に入っておらず 緊張しながら 考え考え喋っていたので
台詞も噛みながら 冷や汗の掻き通しでした。

繰り返し繰り返し 台詞を繰り 覚えるように努力しておりました。

やっと楽に台詞が言えるようになり テンポも出てきて もう大丈夫かな? と 思った矢先
玉三郎さんからのご指摘!! 


自分ながらに 「しまった!! 楽にやりすぎた。」と 猛反省しました。

  『楽にやる』 お客様には意味がお分かりにならないかも知れませんが

台詞が頭に入り なめらかに出てくるようになると リズムになってしまい 考えなくても
次の台詞が出てくる様になって参ります。 

これをうっかり 慣れたと錯覚して リズムに頼っていた私が居りました。

喋っている台詞は お客様にわかって頂かなくてはならない 
はっきり 喋る事とにあまりにも意識しすぎて 感情がおろそかになっていた。


初日近辺は感情を意識しすぎて 次の台詞が出て来なくなっていたのですが 
そのパターンを変えて 先に台詞を覚えようとして 覚えてしまうとリズムになってしまう。

この思考の迷路にはまっていたのが 今日の玉三郎さんのご指摘で ハッと夢から覚めた様な状態です。


でもさすがに 玉三郎さんは私のその気持ちを見逃さなかった! 
と云うより 見抜かれてしまった。 もうがっくり 肩を落とすより他はありません 

もちろん こう云ったご指摘は 私だけではありません 
主だった俳優さん全てに 各自の誤りを見抜かれ 端的にご教授してくださいます。

自分でも迂闊でしたが 教えていただいたことは もちろん本当にありがたいことです。

舞台でも 自分ではどの様な方向に向かっているか 
わからない状態になっていることが しばしばございます。

今日からもう一度 初心に帰って 鯉七 教えて頂いた事を綿密に演じて参りたいと思います


それにつけても 座頭といわれる方々 興行の責任も重大ですが 
一人一人の役者の演技を 楽屋に居られる様に見えて すべての舞台を御存知だということ

私にはできない 凄いなあと思うと同時に 改めて御礼 敬意を表する次第にございます。

ありがとうございました。