昨日は きっかけの違いで 歌舞伎がどれほどの喜劇になるかのお話をしました。
今日は 小道具がどれほど大事かのお話をさせて頂きます。

今回 ヤマトタケルでの小道具で大事なものは 焼津での倭姫から貰った 火打石でしょうか?

もしあれが なかったら? ・・・楽屋に忘れて 本当になかったら?・・・  
万一なかったとしても お客様にわからないように お芝居は続きますが(笑)


今夜も昔の話ですが 仮名手本忠臣蔵 七段目 祇園一力茶屋の場 

遊興にふける 大星由良之助の元へ 大星力弥が 手紙を届けに参ります。


花道から出る力弥 花道にある木戸越しに 由良之助が手紙を受け取り うなづき 
「祇園町を離れてから 急げよ」と 色町での不似合いな行動を 慎み、戒めるように指示を与えます。


この由良之助 先代鴈治郎さん 力弥は・・・ あえて伏せます。


花道から登場した力弥 なんと手紙を入れる文箱ごと 楽屋に忘れて来てしまいました。

由良之助に「お耳を!」と言い 耳元で「すいません 手紙 忘れて来ました。」 と云う言葉に

鴈治郎さんはうなづき 力弥に 「耳を貸せ」と言い 小さな声で「あんた 何しに出て来たんや?」

と言った台詞の後 先の 待て 祇園町を・・・・の台詞をおっしゃいました。


このやり取り お客様はわからず そう云うものかな? で、終わり 舞台になんの支障もありません

でも もしお客様の前で このやり取りがあったなら こんなに面白いことはないでしょう!!

歌舞伎は喜劇!の発想は こう云う処にあります。 


鴈治郎さんの洒落た その場の返し方 臨機応変 忘れた力弥への戒め お客様への配慮 。

すべてが経験の賜物です。 

先代鴈治郎さんは ヤマトタケルの初演の時 帝のお役に内定していましたが 
残念ながらその前に お亡くなりになられました。

大事な小道具を 忘れると 本来 お芝居はつながらなくなるのですが
もし忘れても その場 その時に役者の技量が 試されます。

安住してはいけませんが 大事なことです。


先代鴈治郎さんは 師・猿之助のお芝居には何回もご出演頂き 
伊達の十役の八汐 加賀見山の岩藤 千本桜の義経 等

その存在感の大きさは類を及びませんでした。 


そしてヤマトタケル初演の帝は 鴈治郎さんより 実川延若さんになりましたが 
この方の存在感もまた大きかったです。



小道具の話をと思いながら 違う方へ話が飛びましたが  先の逸話を含めて このお二方の
思い出は つきません   

明日は、初演のときの延若さんの思い出を少し・・・・