お客様からスーパー歌舞伎と 普通のお芝居の違いは何ですかと?
と、よく聞かれる事がございます。


スーパー歌舞伎は、いつもの歌舞伎と違い、現代語でお芝居が進行するために 
新劇や現代劇と違和感がなく 自然に御覧になられているせいだと思います。

(いつもの歌舞伎が 違和感があると云うわけでは決してありません 誤解のないように・・・)


たとえて云えば、火の精や走水の浪後見など 自然現象を人間の手でアナログ的に行う事。 
また 見得(ツケが入って バッタリと云う動作)や 女形の登場人物 隈取を取った化粧方法など
行なわれている手段等は、もちろん歌舞伎の演技術であります。


お客様の言われていることは こう云う歌舞伎独特の事ではなくて 
お芝居の方法だと思いますので そのことに少し触れさせて頂きます。


以前にも申し上げましたが、歌舞伎は現実的には起こりえない『嘘から出た 表現方法です。』

リアルを追求すると どうしても行き詰ってしまう場面も 歌舞伎の方法だと 
あまりにも馬鹿馬鹿しくて 馬鹿馬鹿しさを通り越した 表現方法となるのです。

一番おわかりになりやすい例えは 熊襲館の場面でしょうか? 

ご観劇くださった方は、お分かりになられると思いますが 

小碓の命が踊り女に化けて 兄タケルを暗闇の中 舞台中央で刺します。
その後 弟タケルの「灯を・・」の台詞で舞台が明るくなります。
 
で、兄タケルは、館の中まで死に場所を選ぶように 舞台奥へ入ってから死にます。

これは、後の立ち回りなどの為に そこで死なれると邪魔になるので 
あらかじめ 死ぬ場所が決められている訳です。

それによって 民衆一同は全員が 兄タケルを追って裏向きとなります。
ここで小碓だけが裏向きから 正面向きになります。  これは歌舞伎独特のアップなのです。

弟タケルが 「兄者を殺したのは誰だ!」と叫んでいる間も 
民衆は裏向きでストップモーションのままです。 

弟タケルが小碓の剣を見て 「あ~!!」と云うまでは 動きません!

弟タケルが動いているのですから 時間が止まったわけではありません

でも あえて あ~!と云うまで動かず ここで初めて全員が表を向きます。
次に小碓が「女ではない」と 本性を現しても ツケが入るまでは みんながアクションを致しません  

ここでよく考えてみてください。 リアルなお芝居ですと 
兄タケルが殺された後 それぞれの民衆がアクションをしなくては お芝居が成り立ちません

みんなが兄タケルを殺した相手を探し始めるでしょう  
そうすると誰かがすぐに 剣を持った小碓を見つけなくては またリアルでなくなってしまいます。

でもそうしてしまうと 小碓の「女ではない」と云う台詞と 
衣装を引き抜く動作、 見得が際立たなくなってしまうのです。

あえて 引っ張って 引っ張って その後の一気の立ち回りまで インパクトを抑えて居るわけです。

本来 ありえない表現方法 時間差のストップモーション 
見えていても ツケが入るまでは 知らない振り 全員の同一行動
 
どうです?  ここまで行くと馬鹿馬鹿しいでしょう? やっている方も馬鹿馬鹿しいのです。 

でも それが面白いのです。 お客様も自然に御覧になられていて
指摘されると「おお そういえばそうだ!」と納得されたのではないでしょうか?

このような演出が至る所にございます。 スーパー歌舞伎 独特の演出術!! 
(おいおい その2 その3も 続けて行きたいと思います。) 

もしこの後に ご観劇の皆様は こう云ったところも 気にしてみて下さい。
また すでに御覧になられたお客様は振りかえって思い出してみて下さい。

リアルを外れた 馬鹿馬鹿しい 歌舞伎独特の 『嘘から出た表現方法』を 
もう一度 お楽しみ頂けると思います。  

私たちにとっては もう当たり前の事なのですが お客様からしたら 
すごく 不思議なことがあるかもしれません

なにかありましたら お気軽にご質問ください。