私が初めて舞台に立ったのは、五歳の時でした。
以降、子役として何度か舞台に立たせていただきました。

その中でも、茶川一郎さんやダイマル・ラケットさん、いとしこいしさんなど
往年の喜劇俳優の方たちとも、ご一緒させていただいたこともありました。
毎日が本当に楽しい舞台でした。

この話題についてはまた後日、機会があったらつづらせていただきます。

私は、子役の経験もあることから、スーパー歌舞伎だけではなく、歌舞伎全般に
出演している子役さんのお化粧を担当することが、多々あります。

ヤマトタケルの中にも子役さんたちが出てまいります。

小姓二名とワカタケルのお化粧は、私が担当しております。

ワカタケルは演出上、とても目立つ出番ではありますので、ご存知の方も多数いらっしゃると
思います。

しかし、それ以外にも、小姓・女小姓の4名が帝と皇后の打掛の裾を
介錯する役目で出演しております。
一見、目立ちはいたしませんが、大きな衣装を着た役者さんのサポートをする大事な役目です。
帝役の方、皇后役の方がいかに動きやすいように立ち回るか、
しかもそれが、目立ってはいけないのです。
小姓・女小姓と云う、役目に徹する動きが必要な、難しいお役です。

この子役さんたちの演技指導を長年されていたのが、音羽菊七先生でした。
女性の先生ではございましたが、とても厳しい指導をされる方でした。
子供さんの指導の折には、そばについているお母様方が驚かれるほどの
行儀作法、立ち居振る舞いにいたるまで、折り目正しいしつけをなさっておられました。

ご自分も子供の頃から歌舞伎に出演されておられたので、
子役の動きはすべて把握されておられました。

現在の猿弥さん、澤村宗之助さん達もこの先生の御指導の下、成長してきた俳優さんです。

三年前のヤマトタケルの際、初日が開いてすぐ、音羽先生の訃報を聞き、
信じられない思いでした。

前年12月に、子役さんの面接の折に、立ち合わせていただきましたときが
先生との最後の対面になるとは、その時は思いもよりませんでした。

子役さんへのお化粧を担当するにあたって、私も色々と先生から
学ばせていただきました。
まだまだたくさんお話が出来ると思っておりましたのに、あまりにも多くのことを
持たれたまま、突然先に逝かれてしまいましたことが残念でなりません。

子役さんはすぐに成長され、三年前とはまた別の新しい子役さんが出演されます。

今までの子役さんたちも、音羽先生に習ったことは、体に染み付き、
たとえ今後、違う世界に行かれたとしても、その勉強は必ず生きてくると思われます。

今は音羽先生の遺志を継がれた 新しい先生が、子役さんたちを指導されております。
そして来月、また新しい子役さんとの出会いがあります。
一緒にどんな舞台を作って行けるか、今からとても楽しみです。

ヤマトタケルの三年ぶりの再演にあたり、改めて音羽菊七先生の
ご冥福を心からお祈り申し上げます。