兵庫県の瀬戸内海沿岸で温暖な田舎に生まれ育った。
大志を抱きて、とか、よ〜しひと旗上げるぞ、とかのポジティブな気持ちは一切なかった。
アル中の父と子供を省みない母と、自分のことにしか興味のない2歳上の依存体質の兄との4人の核家族で育った。
生家や家族への未練など微塵もない、ただただ早く独立したかった。
大学を出たのち就職、その後数年で妻と知り合った。
無茶苦茶かわいかった。
田舎にいるころ、それから大学の下宿生活のころ、さらには会社員になってからの独身時代、これらはいずれも彩りのない単調で希望の感じられないモノトーンの生活だった。
そこから、はじめて色の付いた世界に生まれ変わった気がした。
今までとは比べ物にならない、別世界に転生してきたような錯覚を起こした。
妻と結婚して、賃貸マンションの一室に住み始める。
わざわざ、下町の商店街に隣接するマンション。
毎日が夢のような生活。
自分は独立できたんだ、という嬉しさでいっぱいだった。
その頃妻もOLとして働いていたので、平日の朝食は分担してつくり、それぞれ出勤。
妻はクルマで、私は電車。
だったと思う。
帰りは時間が違うので、夕食はお惣菜を買ってきたり、時間に余裕があれば作ったり。
時間が合えば二人で食べた。
週末になれば、二人でぶらぶら
近所のアクセサリーショップとか、日用雑貨とか、時には将来の引越しに備えて家具を見に行ったり。
二人とも跡取りではなかったのでかなり自由気ままに生活を楽しんでいた。
故郷を出てからこの時で10年くらいだったかな。
ようやく根無草が根を張りはじめた、そんな生活の第一歩。