「ツールを用意したら、後でアイデアが自然に出てくる」という考え方があります。しかし、僕は楽観ではありません。僕は、先に研究の目標を決めるべきだと思います。研究目標を達成するためのツールを用意するこそ、やる気があるわけです。逆に、ツールを一生懸命用意したが、アイデアがなかなか思いつかないとき、どうなりますか?もう最悪な状況になりますね。卒業できなくなります。

僕が卒論生として研究室に入ったばかりのとき、半年間実験室には入りませんでした。毎日は本や論文を読んだり、先輩と議論したり、数値計算をやったりしていました。「ネタ探し」に必死でした。半年後、自分のやりたいことをやっと見つけました。そうなってから、はじめて実験室に入ったと覚えています。後はもう楽です。目標ははっきりでしたから、先輩の指導の下で実験が成功し、研究成果をあげることができました。本や論文もたくさん目を通したので、議論のための基本知識をもつようになっていました。研究室内の議論に参加できると、さらにいろいろなことを学ぶことができました。

今は違います。学生が研究室に入ってきてまもなく、もう「これを作ってください、勉強になりますから」、「企業は手を動かす人材を欲しがるから、これを作るといいトレーニングになるぞ」と指示を受けます。もちろん、ツールを用意するには、時間と労力が必要です。学生がツール作りに専念すると、勉強、議論や考える時間がだんだん減るのです。そして、研究意欲も失っていくのです。「最近は自分の頭で考える学生が少なくなったなあ」と聞くと、僕はいつも思います。それは、学生の質が落ちたのではなく、彼らの才能を引き出すような環境はもう存在しないからです。