ラモサという店に入ると、久しぶりに彼の姿が見えた。彼の居場所はすぐに分かる。彼が呼吸すると、その息が雲のように白い煙となって吐き出されるからだ。そしてその息は仄かに甘ったるい匂いがする。だから店に入り白い煙と甘い香りがするところが彼の居場所となる。目を閉じても、鼻を塞いでも、見つける事ができる。以前に聞いたところによると、彼の体内ではいつも何かが激しく燃えているらしい。何が燃えているのかを聞いたが、彼はいつも以上に長く白い息を吐いただけで、教えてはくれなかった。

彼のそばに行き、一応座ってもいいかを尋ねてから、彼の横に座った。

彼が言った「ねえ、今、日は満月だよ、も、う見たかい?」
彼の声は吐いた煙をくぐって僕の耳に届く。その煙には音の振動を弱らす力があるらしく、僕の耳に届くまでに少しのタイムラグがある。

「まだ見てないよ。だいたい月なんて毎日気にしないからね。」

「そっか、普、通はそう、かもな」

「最近見なかったけど、どこかに行っていたの?」

「僕か、い?そうなんだ、実は山、に登ってた、んだよ。」

「山?」

「そう、なんだ。ちょ、っとその山が興味深、くてね。聞い、てくれるか、い?」

「もちろん聞くよ。」

そう言ってから彼はしばらく黙っていた。その間に白い息がもくもくとその勢いを増し、彼の姿を見えなくするほどの量が吐き出されている。もしかすると頭の中でその山について思い出しているのかもしれない。僕はそう思ってしばらく彼が落ち着くまで待つ事にした。どうせ今この煙じゃあ彼の声は到底ちゃんと聞き取る事ができない。

5分くらいすると、彼の呼吸が徐々に落ち着き、煙が天井の方へするすると消えていくのを待って、彼は口を開いた。

<to be continued>