ご婦人「あなた方、ご結婚されてるの?」

筆者「あ、いえ、まだなんです。」



「まだ」と咄嗟に答えた筆者。

これではまるで結婚の予定があるような言い方ではないか。
まずいことを口走ったかと、夫の顔色をうかがう。

聞いていたのかいないのか、表情に変化はない。



ご婦人「あら、まだなの?」

筆者「えぇ、残念ながら…」

ご婦人「もうすぐよ!うふふ。」



早くこの話題が終わって欲しいと思ったところで、筆者らの旅程に話題が移った。

どこから入国し、どのように巡ってきたのか。
翌日はどこに行くのか。



ご婦人「明日はどこに行くの?」

筆者「明日は◯◯に行きます!」



翌日は、美しい星空が見られるという、山奥の街に移動する予定であった。



ご婦人「あら、◯◯?素敵なところよー。」

ご婦人「そうよ!プロポーズにぴったりの場所があるわよ!」

ご婦人「そうそう!プロポーズするならあそこよ!おばさんたち教えてあげるから!」



ご婦人方はにわかに盛り上がる。
ご婦人は他人の色恋沙汰がお好き、というのも万国共通のようである。



夫氏「ははは。考えておきます。」

ただ苦笑する夫氏。

ご婦人「頑張ってね!!」

ウインク。



序盤こそ気まずい話題にヒヤヒヤしていたが、途中から夫氏が追い込まれる図が面白くなってきた。

ご婦人、ナイスプレッシャー。

夫氏よ、あなたはそういうお立場なのだ。
「サプライズはないからね」などと言っている場合ではないのだ。





翌日、筆者たちはバスで目的地へと移動した。
お天気はパッとしない曇天。

到着後、周辺を散策して過ごした。
ご婦人のおすすめプロポーズスポットにも足を運んだが、サプライズはなし。

なーんだ。
せっかくおすすめしてくれたのに。

期待していたわけではないが、若干心の準備をしていた自分が恥ずかしい。



レストランで夕食をとり、ホテルに戻ると、雨が降り出した。
次第に雨脚が強まる。

あぁ。星も見られないのか。
こんなに遠くまでやってきたのに。



筆者「星、見られないかな。」

夫氏「山の天気は変わりやすいから。少しのんびりしてよう。」



シャワーを済ませ、買っておいたアイスを食べながらのんびり過ごした。
しばらくすると、バルコニーの方から人の声がする。

雨が止んだようだ。



筆者「まだ雲はあるけど、雨止んだみたい!」

夫氏「ちょっと外出てみようか。」



夏とはいえ夜は冷える。
ダウンを羽織り、湖畔へと向かった。

道のりに街灯はなく、ホテルを離れると周囲は真っ暗。
持参した小さな懐中電灯と携帯のライトを頼りに進む。

湖畔の大きな岩に二人で腰を掛けた。



雲の流れが速い。
空を覆う白い膜がはがれていく。

そうして少しずつ現れたのは、今までに見たことのない空だった。
ぎっしりと星の散りばめられた漆黒の空。



我々は言葉を失った。