結婚後、夫氏と二人で迎えた冬に交わされた会話。
筆者「そうかな?肉じゃがこの前つくったよ。普通って例えば何が食べたいの?」
夫氏「そうだなー。ぶり大根とか。」
ぶり大根。
ぶり大根と聞いた途端、筆者のある記憶が想起された。
あれは、修士一年のときだろうか。
研究室で恒例のお花見が催された。
全体で飲食物の手配はしているものの、なんとなく女子は手作りのものを差し入れする流れ。
筆者も例に漏れず差し入れをした。
たしか、ケーク・サレとロールチキン。
食べやすさと見た目の華やかさを考慮した選択だった。
筆者の一年後輩に、言わずと知れたお嬢様がいた。
お父上は名のある方で、本人は、服装もメイクも話し方もやや個性的。
そんな彼女が差し入れとして持参したもの。
それは、ぶり大根であった。
彼女は、大きなシール容器二つを差し入れた。
家庭的な差し入れに意表を突かれる。
一方で、お花見にぶり大根?
シャバシャバだし、シール容器を大勢でつつくの?
という疑問が湧いた。
どこかで、自身のパサパサフィンガーフードの方が正解だと思っていた。
結果。
ぶり大根は、教授をはじめとする男性陣の圧倒的な支持を得た。
エキセントリックな風貌と家庭的な差し入れのギャップも相まって、人気を博した。
一方の筆者は自ら持参したケークサレをつまむ。
ええ、筆者はワインのお供を自ら用意しただけなのでね。
いいんです。
どなたかに召し上がっていただくためにご用意したわけではございません。
このとき、筆者は学んだはずだった。
ぶり大根こそ女子力の象徴であると。
しかし、それを身につけることなく、時を過ごした。
筆者の実家では、数えられるほどしか食卓に上ったことはない。
そもそも、ぶり大根は一般的な料理なのか?
筆者の母は料理上手である。
おせちはゼロから作れるし、飾り切りも見事。
異国の料理もお菓子もお手の物だった。
筆者の大好きなおふくろの味は、キッシュ。
学校から帰ると、アーモンドクリームたっぷりの洋梨のタルトが焼けていた。
しかし、ぶり大根はほとんど見たことがなかった。
筆者「ぶ、ぶ、ぶ、ぶり大根?実家では出てこなかったけど、普通の料理なんだね。挑戦してみるよ!」
そうして、筆者は初めてのぶり大根を作った。
夫氏「思ったより薄味だね。」
筆者「てか、パサパサだね。」
夫氏「まぁ、不味くはないよ。」
結果は惨憺たるものだった。
皆に喜ばれるぶり大根を作った後輩は尊敬に値する。
筆者「食べられなくはないけど、また食べたいとは思わないよね…慣れないことすると、やっぱりダメみたい。」
夫氏「あられちゃんも失敗することあるんだね。」
筆者「改善の余地あり!次また頑張るよ。」
普通の料理=ぶり大根とはどの国の話なのか。
しかし、どうやら肉じゃがよりも女子力評価は高いようだ。
今年はぶりが例年よりもお手頃らしい。
修行を始めるにはうってつけ。
さぁ、頑張ろう。
ぶりは照り焼きでよくない?という気持ちに蓋をして。