落ち込んでばかりはいられない。
減点を挽回せねば。
気を取り直し、夫氏の後に続く。



ご家族は明るく筆者を迎えてくださった。
ご両親はいささか緊張されているようにも見受けられたが、妹さんが場を和ましてくれる。



出しゃばらない。
振られるまで喋らない。
とにかく笑顔でにこやかに。

筆者は、気立ての良い控えめな彼女を演じようと努めた。



一方の夫氏。
全く助け舟を出そうとしない。
むしろ、不機嫌そうにほとんど喋らない。

さっきまで筆者をからかっていたのに、どうしたというのか。

たしかに、実家では口数が少ないことは事前に伝えられていた。
トーク回しもしないことを宣言し、自力で会話を展開させるよう、言われていた。

しかし、ここまで放置されるとは…



なに?この試練。



筆者「夫さんたら、どうしたの?さっきまでおしゃべりだったんですけど(苦笑)アセアセ

義母「あら、そうなの?うちではいつもこんな感じよ!」



ご家族3人と筆者がお話するという構図のままティータイムを終え、ディナーのお誘いを受けた。
今回はお茶のみで失礼するつもりだったが、すでに予約済みとのこと。
夫氏が承諾する。



予想していなかったわけではないが、この状況がまだ続くのかと思うとつらい…



ここで、義妹とはお別れし、4名でタクシーに乗り込む。
行き先はホテルだった。

夫氏に揶揄されたワンピースだが、どうやら筆者が正解だったらしい。



ディナーは、お酒が入って饒舌になった義父がリードするかたちで進んだ。

夫氏は相変わらず、自分の興味のある話以外は話さない。
筆者は、乾杯程度にとどめ、細心の注意を払いながら義父との会話を盛り上げる。



この時ほど、おじさまばかりを相手にする仕事でよかったと思ったことはない。



お腹いっぱい、胸いっぱい。
正直なところ、何を話したかほとんど覚えていない。
夫氏がカメラの話には乗っていたことだけ覚えている。



なんとか事なきを得たと思った別れ際。

義母「息子が彼女を連れてきたの、初めてなんですよ。あられさんみたいな方で安心したわ。こんな息子ですけど、よろしくお願いします。」



筆者の手を握って、義母はそうおっしゃった。
心なしか、瞳が濡れていたように見えた。



このとき、筆者は初めて自覚した。

筆者は、夫氏の人生に関わることになるのかもしれない。





解散後。

夫氏「いやー、ほんとに完璧だったよ。できた彼女を持って鼻が高い。」

そりゃどうも。
あなたが働かない分、全力で働いたんでね。



これは、夫氏の課した採用試験だと思うことにした。