M氏には、もう一つ趣味があった。
それは、ゲーム。
「電車の中で、タブレットを使って猛然とゲームをする人が理解できない」とうっかり筆者が発言したことで明らかになった。
M氏は無類のゲーム好きで、高校生の頃は渋谷のゲームセンターに入り浸りだったという。
ゲームセンターの常連客でつるみ、他のゲームセンターに出向いては道場破りをしていたそうだ。
道場破りは遠く大阪のゲームセンターまで。
現在は、専らインターネット対戦ゲーム。
衝撃的だった。
運動する人はゲームをしないと思っていたし、何より良家の子女がゲームセンターに入り浸りという状況が、にわかに信じられなかった。
筆者とて当時、渋谷のゲームセンターには出入りしたことがある。
プリクラを撮るために。
ゲーム機のコーナーは下を向き、早足で歩いた。
渋谷のゲームセンターは危険な場所として認識していた。
しかし、筆者の先入観で、遠い昔のことで、否定するのは間違っている。
笑顔、理解、共感。
筆者「そういう世界もあるんですね!全然知らなかった!」
M氏「女友達でも趣味がないって言う子がいたけど、僕みたいに趣味が多すぎて困ってる人に相談されてもね。」
M氏「コーヒーでも飲む?」
あまりにお腹が苦しかったのと、淀んだ空気を入れ替えたかったため、少し歩くことを提案した。
赤レンガ倉庫まで歩く。
しかし、閉店間際。
飲み物をテイクアウトすることになった。
まずい。
これは、飲み物を買って車に移動する流れだ。
去り際を見極められず、駐車場までお供してしまった。
山へ帰るM氏とは真逆へ帰る筆者。
乗車したとて、どうすれば…。
そうだ、都合のいい駅で降ろしてもらおう。
駐車場に入ると目の前にドイツ車が停まっていた。
その車の横を通過しようと、M氏の後にとぼとぼと続く。
M氏「いや、助手席そっち。鍵あいてる。」
通過しようとしたドイツ車がまさにM氏の愛車であった。
理系男子は国産ハイブリット車とばかり思っていた筆者は意表を突かれた。
やはりM氏は慶應ボーイらしい価値観をお持ちだ。
筆者「あの、適当な駅で降ろしてください。」
M氏「家まで送るよ。どうせ俺は明日も横浜だから、実家帰った方が近いし。」
M氏のご実家は筆者の住まいと目と鼻の先だった。
そんなところに実家があるのか、と驚く一等地。(筆者の住まいは一等地ではない)
M氏はもしかすると、幼稚舎から慶應のお方かもしれない。
この際だから、お言葉に甘えよう。
開き直ったら気が楽になった。
他愛もない話をしつつ、夜のドライブを楽しむことができた。
もしかすると、さっきはM氏も気が張っていたのかもしれない。
「雨が降ってきたから気を付けて」というメッセージや、
「チーズがたくさんのところ食べていいよ」というピザの配分には、優しい心遣いを感じる。
理系な思考は親しみやすいし、お家柄も申し分ない。
趣味は、筆者がゴルフを始めればいい。
M氏とて、気に食わない相手を家まで車で輸送したりしないだろう。
ドライブしているうちに、ポジティブな思考に傾き、筆者は車を降りた。
筆者「今度はMさんのお住まいのエリアに遊びに行きますね」
つづく。