到底長居するような空間でない、物販店舗の傍らのカフェコーナーで3時間が経過した。
打診時の“彼氏立候補”発言はどこへやら。
全く具体的な話は出ない。
往々にして記憶は美化されるもの。
久々に実物を見て、自身の誤りに気付いたのだろう。
今回も二次面接で落選。
それなら、早く解放してほしい。
筆者「時間、大丈夫?」
何度か問いかける。
結局、K氏が動いたのは、ぎりぎりの時刻だった。
仕事だというのに悠長だ。
着替えの時間はあるだろうか。
K氏「今度はゆっくりごはん行こうね。」
そう言って、駅で別れた。
筆者は不毛な午後休を悔いつつ、帰路に着く。
その直後、K氏からLINE。
K氏「今日はありがとう。久しぶりにいろいろ話せて楽しかったよ。今度はゆっくりごはん行こう!」
正直に聞いてみた。
落選したと思った、と。
美化された記憶と実物の差に落胆するのも無理はない、と。
K氏「えっどうしてまた?そんなことないでしょ笑」
それからも毎日メッセージの往来。
おや?これは落選ではないのだろうか?
確かに車とお金への執着には理解できない部分もある。
しかし、大好きな車を手に入れるために、勉学に励み、大きな収入を得られる職に就いたのだから、その努力と意志の強さは称賛に値する。
話題が乏しいのも、まだわれわれが不慣れなせいかもしれない。
日本人男性には期待の薄い、エスカレーターのエスコートは自然にこなせる。
K氏が承認してくれるなら、悪い話ではないかもしれない。
40歳で捨てられるリスクははらんでいるけれど。
そんな、捕らぬ狸の皮算用をしていたある日、ふとFacebookでK氏を探してみた。
トップに表示されたのは、K氏がどこぞの高級外車ショールームのパーティーに参加している様子。
“仲良くしてもらっている金持ちおじさんたちに誘われて―”
また“金持ち”って本当に品がない。
よく見ると、見覚えのあるお召し物のK氏が写っている。
あの時と同じ服だ。
投稿日を見ると、二次面接の夜。
パーティーの開催日をGoogle先生に訊いてみた。
二次面接の日の18:00から。
ドタキャンの理由は、仕事ではなかった。
車。
さすが轟さん。
いや、感心している場合ではない。
K氏は、筆者がK氏と時間を過ごすために、休暇を取得したことを知っていた。
それでも、突然舞い込んだ車のパーティーを優先した。
嘘が嫌いな筆者は、嘘をつかれたことに憤りを感じた。
そして、K氏の価値観に嫌悪感を抱いた。
彼にとって最高位にあるのは、車。
次に、車を得るための手段である、医療という仕事。
それ以外は、取るに足りないものなのだ。
筆者の仕事も、時間も、気持ちも。
轟に改名して、車と結婚したらいい。
一つ残念だったのは、かつてタイトルに冠した“おしゃれ”という形容は、筆者の過大評価だったことだ。
二次面接時のお召し物は、通勤着にしか見えなかった。
パーティーには相応しくない。
LVのリングに金ぴかの腕時計。
それで“金持ち”に仲間入りの気分なのかもしれないが、小物だけが浮いている。
“パーティーに紛れ込んだ下品な成金趣味の若造”がいいところ。
おっしゃってくだされば、スタイリングして差し上げたのに。
中身まで下品な成金だと思われたくなければ、言葉遣いにお気を付けあそばせ。