お見合い二人目は、Web部門で先方から申込みをいただいたY氏。

Y氏のお住まいは大阪である。

 

お見合いは、申し込んだ方が相手方に出向くのがルール。

 

時間とお金をかけてでも会いたいという動機は何か。

どうしても気になったため、お見合いを承諾した。

 

 

 

相手: 37歳 テレビ局勤務 慶應義塾大学卒

方法: 結婚相談所 Web部門

場所: 都内ホテルラウンジ

 

 

 

写真のY氏は、短髪で清潔感があり、キリリとした印象。

スペックも悪くない。

 

この際居住地などどうでもいいか。

上手くいけば、京都にお花見がてら、大阪を訪れようか、などと考えていた。

 

 

 

衣装は、ツイードのセットアップ。

堅いかもしれないが、無理してふわふわするよりしっくりくる。

バッグはハイブランドが嫌われるという情報に従い、このたびCOACHを新調。

コートはペールブルーのスプリングコート。

 

 

 

春らしいお天気に、足取りも軽く、会場を訪れた筆者。

ラウンジの受付で名前を伝え、席に通される。

 

あれ?

 

座っているのは、清潔感のないヨレヨレのおじさん。

磯のりを載せたようなM字状に後退した頭髪に、だらしないメタボ体型。

 

他の席もほとんどがお見合いのため、間違って案内されたのではないかと疑う。

しかし、その男性の口から出たお名前はY氏に間違いなかった。

 

 

 

お見合い写真など、奇跡の一枚を使うのはお互い様。

しかし、これは奇跡ではない。

明らかに物理的な形状が異なっている。

おそらく、写真のY氏は5年ほど前の姿ではないだろうか。

 

 

 

席につき、挨拶を交わす。

真正面からY氏が話す様子を見て、筆者は確信した。

 

生理的に受け付けない。

 

これまで幸いにも、気持ちが悪いと思う方にはお会いしたことがなかった。

世に言う“生理的に受け付けない”とは、これのことか!と納得。

 

 

 

しかし、せっかく大阪から来てくださったのだ。

笑顔でこの時間を過ごそうと決意する。

 

 

 

Y氏の職業は記者。

取材するのがお仕事のようだが、聞くのも話すのも苦手な様子。

口元に手を当てながらぼそぼそと喋る。

 

筆者の声は右から左へ抜けていくらしく、まったく話を理解していない。

ゆえに一向に会話が展開しない。

 

途切れる会話の沈黙を避けたかったのか、小刻みにうなずき続ける。

 

「うん、うん、うん、うん」

「えぇ、えぇ、えぇ、えぇ」

 

 

 

仕事の愚痴だけは饒舌だったため、聞くことにした。

適当に相槌を打ちながら、他のテーブルのお見合いを眺めて時がたつのを待つ。

 

 

 

Y氏「あられさんは、結婚してもお仕事続けたいですか?」

唐突に核心を突く質問。

 

筆者「そうですねぇ。正直、どちらでもいいと思ってます。一応資格もあるので、状況に応じて柔軟に対応できればな、と。」

 

これも市場調査だ。

需要者の声をきいてみよう。

 

筆者「実際のところどうなんでしょうか?」

 

Y氏は「僕?」といった様子で自分を指さすが、筆者はそれを遮る。

 

筆者「いえ、最近の男性方はどう考えられてるのかなと。子どもは社会が育てるから女性も働きなさい、という世の中の風潮を。やはり皆さん子育ては他人に任せて、働いてほしいと思ってるんでしょうか?」

 

Y氏「どうなんでしょうね。わたしは忙しい仕事なので、相手まで忙しいと心配になってしまいます。できれば家にいて、子どもも自分の手で育ててほしいと思ってます。」

 

 

 

Y氏は3年ごとに異動があり、日本各地を転々とするそうだ。

求めているのは、全国行脚を共にし、家庭を守ってくれる家内。

筆者に入札した理由は、“なんとなく”。

 

筆者がその役に指名されたのは意外だった。

しかも距離を語る特別な理由もなく。

 

にわかに理解できないが、貴重な需要者の声として記録しておきたい。

 

 

 

生理的に受け付けないおじさんを前に、限界を感じたのは1時間後。

ラウンジではこの後にパーティーが控えているようで、家具の配置替えが行われ、騒がしくなった。

 

助かった。

 

筆者「なんか、パーティーの準備始まっちゃいましたね。」

Y氏「そうですね。そろそろ行きましょうか。」

 

 

 

会場を後にし、駅まで並んで歩くが、歩き方すら挙動不審。

2,3分の道のりが途方もなく長く感じた。

 

 

 

嗚呼。

これが、結婚相談所か。

 

筆者は、結婚相談所の洗礼を受けた気がした。