40人で新規案件を止めてはどうか。
読者の方からそんなお言葉をいただいていた。
奇しくも進展するかと思われた40人目、K氏をご紹介する。
K氏とは、1ヶ月近くアプリ内でのメッセージを継続していた。
淡々とした内容で、特に面接の希望もない。
筆者の返信が疎になってきた矢先、面接を打診された。
期待はしていなかった。
文章からユーモアは感じられないし、これといった共通の話題もない。
写真も地味でぼーっとした印象。
その場を盛り上げられるか、39人目の二の舞にならないか、不安を抱えつつ面接へと向かった。
しかし、現れたK氏は良い方向に期待を裏切った。
ぼーっとした顔のつくりながら、目には鋭さがあり、動きもきびきびしている。
結構好きな顔であることに気づく。
ピンクの大きめオックスフォードのシャツに黒のスキニーデニムを合わせ、COACHのボディバッグにTOD'Sのドライビングシューズ、手元にはIWCの時計。
身なりも歯科医然としているではないか。
喋りもハキハキ。
いや、ちょっとテンポが早い。
筆者の1フレーズ分に2,3フレーズ入っている。
まぁいいか。
飲み物、お食事の注文。
K氏「何飲みます?赤?白?泡?」
筆者「夏だから」
と言いかけたところで、
K氏「泡ですね。」
店員からワインリストを受け取り、スパークリングワインのボトルを注文。
K氏「嫌いなものある?」
筆者「内臓がダメです!トリッパとか。それ以外はなんでも美味しくいただきます!」
K氏「了解」
以降、筆者に意見を求めることなく注文。
内容は、サラダ、肉メイン×2。
毎回ながら注文時の振る舞いを観察するのは、おもしろい。
K氏は長男らしいリーダーシップの持ち主であり、コスパを重視する方と見る。
センスはあまりない。
次回があれば、肉メインのうち1品を魚前菜に変えてもらおうと誓う。
メッセージと同じく淡々とはしているものの、よく喋る。
話題は主に、生い立ち、学歴など。
K氏のお家柄にはあまり期待していなかったが、思いの外きちんとしたお家であった。
容姿も、家柄も、人柄も、やはり会う前の期待が低いと大きくプラスに転じる。
筆者のK氏に対する評価は面接前に比べ、はるかに高くなっていた。
K氏「プロフィールの“無駄に高学歴”ってフレーズがウケた。なんで無駄なの?」
筆者「婚活する上では、無駄以外の何物でもないですよ。むしろ足かせです。」
K氏「まぁ東大ってだけでひく男は多いよね。僕は対等だと思ってるけど。だって、医療職は“先生”と呼ばれる仕事だから。患者が東大生でも、僕たちが先生であることに変わりはない。」
筆者が有国家資格者に多くお会いする理由はここにある。
医師、歯科医師、弁護士といった国家資格を持つ者は、低俗な学歴闘争とは一線を画している。
専門資格を取得した時点で、違う次元へと遷移するからだ。
筆者の無駄な学歴など意に介さない人間の割合が多くなる。
医師、歯科医師、弁護士は、数多の女性が挑む激戦区。
そんな市場で戦おうなど無謀ではないか、そう嘲笑う者もあるだろう。
しかし、筆者はその可能性に賭けているのだ。
そして実際に、資格者からのオファーは多い。
そんなわけで、K氏は気負うことなく、見下すことなく、対等に接してくださった。
気がかりなのは、前掲の話す速度くらい。
筆者ももう少し早く喋らなくては、と思えば思うほど離されていく…
二軒目はホテルの最上階のバー。
ややトーンダウンしたが、まだ話す速度は追いつけない。
さらに筆者は連日の飲み会がたたり、完全に機能停止。
もうだめだ。
完全に疲れとやる気のなさが表出している。
このパフォーマンスで、次はないだろう。
この際、一刻も早く帰りたい。
諦めの境地のまま駅へと向かう。
解散かと思いきや、おもむろに携帯を取り出すK氏。
K氏「次、いつにする?」
なんと。次があったのか。
終盤、抜け殻のように鎮座していただけの筆者に、慈悲をかけていただけるとは。
そして、1週間後の二次面接が決まったのであった。