―与条件の整理と解法―
問題解決においては、与条件を把握、整理することが重要である。
問題が似通っていたとしても、与条件によって解法は大きく異なる。
婚活においても然り。
相手のバックグラウンド、趣味、嗜好を把握、分析し、それに合わせて行動する必要がある。
与条件の整理を怠れば、間違った解法をとり、正しい解にはたどり着けないのだ。
相手:33歳 歯科医師 鶴見大学卒
方法:婚活サイトPairs
場所:横浜のクラフトビアバー
衣装:カーディガン(KATE SPADE Saturday)、ワンピース(ZARA)、オープントウパンプス(BARCLAY)、バッグ(CELINEヴィンテージ)
完全にネタ切れしたため、一度退会したペアーズを再開することにした。
記念すべき再開後1人目は、33歳歯科医師N氏。
筆者がクラフトビールにはまっている、屋外が好きという文脈をくんで、場所は海の見えるクラフトビール店。
前日には、まだ外は寒いかもしれないからと、上着をもってくるように連絡があった。
お店選びも気遣いも完璧である。
さすが歯科医師。
自ずと気合いの入った筆者は、プリンセスラインのワンピースに白カーディガン、髪はハーフアップと、どこぞの令嬢スタイルで臨んだ。
久々の“はじめまして”待ち合わせに緊張しつつ、到着を待つ。
しばらくして、30分遅れる旨の連絡があった。
職業柄、予定通りにいかないのは仕方ない。
しばし待つ。
お店集合なら飲んで待ってられたのにな…などという考えがよぎる。
もしかするとN氏はペアーズ慣れしていないのかもしれない。
やがて、慌てた様子でN氏が現れた。
笑顔で迎える筆者。
お店へと向かった。
仕立ての良い白シャツにカーディガン、足元はTOD'Sのドライビングシューズ、後ろポケットの財布はボッテガ。
不覚にもバッグと時計は判別できなかった。
ともあれ、衣装にお金がかかっていることは明らかだ。
さすが歯科医師。
最近珍しい短髪が爽やかな印象だが、無表情で早口。
LINEのやり取りの柔らかさとは落差がある。
やはり、ペアーズを介して女性と会うのは筆者が初めて。
緊張からくるものらしい。
美味しいビールと食事で打ち解け、話にも花が咲いた。
仕事の話、趣味の話、家族の話。
しかし、筆者には話さなければならないことがあった。
再登録の際、大学名を記載しなかったのだ。
筆者はトウダイリケジョであることをさり気なく伝えた。
空気が止まる。
N氏「…トウダイって東大」
あぁ、よくある反応。
N氏「東大の人と話したの人生で2回目だー。」
まるで、ツチノコを目撃した経験を語るような様子。
毎年3,000人以上が“東大の人”になるのだから、ツチノコほどの希少価値はないと思うのだが。
N氏「じゃあすごい勉強したんでしょ?」
筆者「そんなことないですよー。たまたまです。試験なんて運ですから」
筆者は実際そう思っていたし、普通のヤツだぞアピールも込めて、そう言った。
しかし、これは禁句だった。
何せN氏は2年浪人し、それでも希望の大学に受からず、仕方なく歯学部に入学、歯科医国家試験も一度不合格を経験したお方。
試験を運で片付けられるような相手ではなかったのだ。
完全な戦略ミス。
ともあれ、なんとかその場を乗り切り、結局閉店近くまで話し続けた。
N氏「ほんとはもう一軒行こうと思ってたんだけど、遅くなっちゃうもんね…」
駅の改札で別れた。
念のため、階段の手前で振り返ってみると、N氏は改札の外でまだ手を振っていた。
あれこれはもしかするともしかするのか
さっきのミスは致命的じゃなかった。
ほっと胸をなでおろす筆者。
しかし…
結果は撃沈。
こうして、トウダイリケジョの婚活記 第二幕が幕を開けたのであった。