皆さんは「推し」という言葉をご存知だろうか。

「推し」とは、(私が)他人に勧めたくなるほど気に入っている、または、応援したい人物や物事を指す言葉です。
そして、その人物(主にアイドルやキャラクター)や物事を応援したりする活動のことを「推し活」といいます。
「推しは推せるときに推せ」という言葉は、誰が言い始めたのかは不明ですが、推し活をしている方々の間では有名な言葉だそうです。

さて、皆さんも何か一つぐらいは、応援したり熱中していることがあるのではないでしょうか。たとえば、好きな歌手のコンサートやライブに参加したり、レコードやCDを買ったりなど、これらも立派な「推し活」だと思います。
では「推し活」をしているとき、たとえば、コンサートやライブに参加したときなどに、「この時間が永遠に続けばいいのに」なんて思ったことはないですか。しかし、そう願っても時間が来れば会場を後にして帰らなければなりません。私も後ろ髪を引かれる思いで帰路に着いたこともあります。楽しい時間というのは、あっという間に終わっちゃうんですね。
さて、仏教の大切な教えの一つに「諸行無常(しょぎょうむじょう)(無常観)」というのがあります。これは、「この世のすべては常に変化し、永続するものはない」という教えです。
推しの存在、活動、推し活している私自身、そして私の気持ちなど、どれ一つをとっても永遠であり続けるものはなく、「今」しかないのだと思います。「推せるときに推せ」とは、正しく「今という瞬間を大切にせよ」と教えているのではないでしょうか。
また「あっという間に過ぎる時間」というのも、仏教では「刹那(せつな)」と教えられています。
「刹那」とは、極めて短い時間の単位で、時間の儚さや、今この瞬間の尊さをいうのですが、「推し活」という行為も刹那的な存在なのだと思います。過ぎ去った時間は戻りません。だからこそ推せる今を生きることが大切なのです。
つまり、「推しは推せるときに推せ」とは、この世のすべてが無常であることを受け入れ、今ここにあるご縁(推しとの出会い)を大切にし、愛と感謝をもって生きることではないでしょうか。

また、「推し活」は、身体的にも金銭的にも無理をせずにご自身のできる範囲内で楽しみましょう。
南無阿弥陀仏

最後に「推し偈(おしのげ)」(詠み人知らず)を紹介します。

 推與我 結縁一時。
 如風至 亦如風逝。
 能推之時 即無上時。
 尽一念心 奉之以誠。

 無常之理 不可免也。
 色聲俱滅 終歸空寂。
 是故今生 燃熱心燈。
 禮讃所推 以全此生。

 推しと我(われ)と、一時(いちじ)に縁を結ぶ。
 風のごとく至り、また風のごとく逝(い)く。
 推すこと能(あた)うる時、すなわち無上の時なり。
 一念の心(しん)を尽くし、これを誠(まこと)をもって奉ず。

 無常の理(ことわり)、免(まぬか)るるべからず。
 色も声もともに滅(めっ)し、ついに空寂(くうじゃく)に帰す。
 このゆえに今生(こんじょう)、熱き心(こころ)灯(ともしび)を燃やし、
 推すものを礼讃(らいさん)して、この生(せい)を全(まっと)うせよ。