【第5回 谷口瑛美】電車を待つ夏 | 早稲田大学演劇倶楽部

こんばんは!演劇倶楽部二年代、34期の谷口瑛美です。

 

はじめにどうでもいいことをひとつ言わせてくださいね・・・

このブログの公開前日7月9日、私、20歳になりました!

わ、祝ってくださるんですね。

ありがとうございます、ありがとうございます。とっても嬉しいです!

 

成人女性谷口瑛美、今年も良い年にしていこうと思います。

 

 

 

さて。前回のもりかりさんのブログについて。

自伝的記憶のお話、凄く興味深いです。

自分の人生においてアイデンティティを形作るほどに印象深い経験かあ。

10個書き出したら確かに私もエンクラの新人訓練が入ってくるのかもしれません。

 

思えば去年の誕生日は新訓の最中に迎えたものだったし・・・

 

そうですね、私が34期一発目ということらしいので、今回は去年の新人公演の話をしてもいいですか?

 

 

  

 

 

これ、34期新人公演『富士山がみえたら起こして!』のフライヤーの裏面です。

撮影地は青梅線石神前駅。

早稲田駅から多分電車で1時間半くらいのちいさな駅です。

 

今でも見るだけで夏の匂いや音や温度がよみがえって来るような本当に素敵な駅なのですが、

そういえば初めからフライヤー写真をここで撮影するつもりではなかったんですよね。

 

 

 

2019年8月某日、撮影のため立川駅中央線1番ホームに集合した私達の目的地はたしか、「ホームの向かいに人間の気配がなく、どこまでも緑が広がるような駅」でした。

実際に劇中で登場人物たちが降り立つ駅みたいに、ここからはどこにも行けそうにないぞと覚悟してしまうような。

 

青梅線に乗り込んで、これからうんと遠くに行くんだとみんなでウキウキしていました。

 

写真にも少し映っていますが、その日私達はスイカやスーツケースなど、各々が撮影用の小道具を持ち込んでいました。

誰の持ち物だったかは記憶が曖昧なのですが、その中には虫取り網もありまして。夏らしいですよね。

 

立川駅を出発してから一時間弱。

車内で何となく虫取り網をいじっていたら、中にちいさな虫が入っていたんです。

外に逃がした方がいいなと思った私はひとり網を持って立ち上がり、次の駅で電車を降りました。

 

駅のホームで2、3回網を振って、虫を落として。

 

 

 

 

私は東京生まれ東京育ちで、いや言い訳のつもりではないんですけど当時は知らないことも多かったんですよね。

例えば、電車は発車前に必ずベルが鳴ると思っていたんですよ。

 

 

駅のホームで網を2、3回・・・ううん無心でブンブン振ってたんだろうな、そしたら後ろで嫌な気配がしたんです

 

 

プシューーーーー。

 

 

 

 

あれ・・・?????

 

振り返った私が見たのは発車ベル無しに閉じていくドア。

当然乗車は叶わず、そのまま青梅線は発車。

徐々に遠くなる車体とすれ違いにやってくる絶望感。

 

そうして私は携帯も持たず(車内のバッグに入れっぱなしだったため)、定期も持たず(車内のバッグに入れっぱなしだったため)、

百均のぺらぺらの虫取り網だけを手にまったく知らない駅にひとり取り残されたのでした。

 

その駅こそが石神前駅です。

 

 

 

 

今更ですが、私はカメラ機能があるような利器を持っていなかったため、その時の写真などは当然残っていません。

なのでイメージ画像でお送りしております。(画像:いらすとや様)

 

ドアが閉まっていく瞬間「ありえない!」みたいな顔をしていた同期や先輩。

私もそう思いました。

連絡手段が本当になかった。

お金もなかった。

あと無人駅だった。

めちゃめちゃいい天気ではちゃめちゃに暑かった。

 

もっと言っていいですか?

セミ、マジで、うるさかった。

 

ここからはどこにも行けそうにないぞ、とその時は本気で感じ取りました。

もちろん自業自得ですが・・・

 

幸運なことに偶然同じタイミングで電車を降りていた親切な方からスマホをお借りすることができ、Twitterにログインさせてもらって同期にDMを送りました。

たしか待ってますみたいなことを言ったような気がします。もちろん返信は待たずにスマホをお返しして。

 

次はいつ来るのかわからない、というかそもそもみんなが乗ってくれてるのかも定かでない折り返しの電車を、

あとは虫取り網で素振りしながらホームでひたすら待っていました。

 

去年の話なので多少しんどかった補正がかかっているかもしれませんが、だいたい30分前後待ったような気がします。

みんなが戻ってきて、少し怒られて、フライヤーはもうここで撮ろうと言ってその場で写真を撮りました。

 

つくづくいい写真ですよね。

夏の匂い・音・温度。本当に全部思い出せます。それから孤独感も。

 

 

 

この頃の私は、学生会館にある部室くらいの小さな自室で主に生活していて、何となく常にカーテンは閉めているので外の様子はよくわかりません。

この季節が去年と同じ夏なんて!考えるたび驚いてしまいますね。

同期にも随分長いこと会っていません。LINEとかzoomとかはね、してますけど。

 

だからでしょうか。時々あの夏の日と今とを重ねてしまう瞬間があるんです。

 

私はいつの間にあの青梅線を降りてしまったのか。

みんなと会える次の電車は一体いつ来るのか。

そういうことも考えます。

私は今もひとりで、石神前駅のホームにいるのだと思います。

 

まああの時よりずっと快適な環境ですけどね!

 

 

 

電車を待っていた日が今も記憶に残っているのはもう一つだけ理由があります。

 

『富士山がみえたら起こして!』というのは私達の新人公演のタイトルですが、初めてこの公演名を伝えられた時、これは私達の新人訓練の印象から来ているのだと言われました。

 

新人訓練をこなしている私達は、「みんなどこかで何かをずっと待っている」のだそうです。

だからこの作品は安心感と戦い、勝手にどこかへ連れて行ってくれる何かではなく自分で新しいものを掴んでいく話だと。

 

けれど結局あの夏の日に、実際に駅に取り残された私は電車をただ待つことを選びました。

待つ以外のことなんて怖くてできなかった。

 

今の私が感じる実態のない孤独や不安は、待つ以外の打開策は本当にないのでしょうか。

そんなことはないと思う。そりゃもう絶対にないと思う・・・んだけどなあ。

 

外からいつかきっとやって来るだろう何か、を臆病の言い訳にしないこと。

これは昨日で20歳になった谷口瑛美も掲げていきたいテーマです。とても難しいことですが。

 

 

 

思ったよりだいぶ長くなってしまいましたね。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

今回お話したのは私の夏の話ですが、次は35期にとっての夏がやってくるはずです。

(ここで言う夏は5~9月頃の時期的な夏という意味ではなく)

 

どんなことが起きるんでしょうか、どきどきわくわくですね。

どんな夏でもいいんですよ。

 

だから、今度はぜひあなたの夏を見せてほしい!

私は心からそう思っています。