それは、一度目にすれば最後、喉から手が出るほどの渇望を呼び起こす腕輪だった。
小さなルビーが、まるで熟れすぎた果実のように妖しく光る。
市長選の街頭演説。
候補者の声は、虚しく空に吸い込まれていた。
市民の生活を第一に願う彼の志は本物だったが、
その言葉には覇気がなく、
道行く人々は一瞥(いちべつ)もくれずに通り過ぎていく。
「先生、僕たちがついています。諦めないでください」
支え続けてきた若者たちの純粋な瞳だけが、彼に残された最後の砦だった。
選挙戦の中盤、彼は休息も兼ねて地元マルシェを訪れた。
片隅に、ひっそりと店を出す不思議な老人がいた。
老人が古びた箱からあの腕輪を取り出した瞬間、候補者は魅了された。
「その腕輪をぜひ譲ってください」
「構わんが、これはアンラッキーを呼ぶかもしれんぞ」
警告など耳に入らなかった。
彼は震える手で言い値を払い、腕輪を左手首に嵌めた。
その瞬間、彼の脳裏から「正義」や「市民の幸福」といった文字が消え失せた。
代わりに、冷徹なまでの覇気と、聴衆を意のままに操る饒舌(じょうぜつ)さが宿った。
彼の演説は一変した。
熱狂の渦が街を包み、彼は圧倒的な支持を得て当選を果たした。
祝勝会の会場。
万雷の拍手の中、無償で汗を流してきた若者たちが花束を抱えて駆け寄った。
「おめでとうございます、先生! これで街が変わりますね」
だが、新市長は花束を受け取ることなく、冷たく言い放った。
「ありがとう。だが、もう君たちに用はない」
若者たちは耳を疑った。
「どういうことですか?」
「これから地元有力者との祝賀会があってね。例の市庁舎改装計画を詰めるのだよ」
「あの癒着が噂されている無駄な計画ですか?」
「それが何か?」
愕然(がくぜん)と立ち尽くす若者たちを尻目に、一台の重厚な高級車が滑り込んできた。
新市長は挨拶一つせず、当然のように後部座席の闇へと消えていく。
号泣する若者たちの背中を、ただ冷たい月だけが静かに見下ろしていた。
「あらすじ」
志ある候補者が魔力の腕輪で覇気を得て当選するが、高潔さを失い若者を捨てる物語。
A candidate gets power from a magic bracelet and wins, but he loses his heart and leaves his supporters.
語彙&表現
candidate 候補者
power 権力
win 当選する
lose 失う
heart 心(志)
leave 捨てる(去る)
supporter 支持者
cold 冷たい
「イタリア語フレーズ」
un braccialetto che ruba l'anima
a bracelet that steals the soul
魂を奪う腕輪
non ho più bisogno di voi
i don't need you anymore
もう君たちに用はない
la luna fredda guarda in silenzio
the cold moon looks on in silence
冷たい月が静かに見ている
「編集後記」
アメブロ界隈ではダイエット系をよく見かけます。
ダイエットしてキレイになられた方が多いです。
元々キュートであった方は益々美しくなられています。
東京も新規開発ではなく、ダイエットして美しくなるべきかと。
その点、地方都市は元々のダイエット体質を活かした美しい発展が可能でしょう。
ただし、発展に潜む「魔性の腕輪」には要注意です。
さて、目先の利益を優先して百年の計がないと損する話。
江戸時代に河川の氾濫(はんらん)で「焼け太り」した悪徳商人と幕府要人。
個人が儲かっても大元となる母体(徳川幕府)を弱体化させて行くのでは墓穴掘り。
どこかの国でも似たような短絡思考で「バケツを掘って」いる上層部が居ませんか?
ということで、また〜
追伸: 読書は「量よりも質」なのだろうな、と思う近ごろ。