独身の頃から10年来、ちょくちょく行っていたお気に入りのエスニック料理店があります。
ここでしか食べられない絶品のメニューがあったので、私の外食レパートリーには欠かせないお店でした。
喫煙可というのが唯一の難点で、また静かなお店だったので子供が生まれてからはちょっと行けずにいたのですが、どうしてもあの味が食べたくなって、先日、開店直後の早い時間に行ってきたところでした。
がらんとした店内で、手持ち無沙汰にしている店員に、なんとなく妻が話かけると、
「いやぁ、最近はいつもこんな調子なので、実はそろそろ店を閉めるんですよ。
店主も近頃の混迷した日本を去って、自分の国でゆっくり過ごしたいそうなんです。」
「すごく大好きだったのに!ぜひまた日本に帰ってきてどこかでやってください!」
ひさしぶりの来店が、なんと最後の来店となってしまい、後ろ髪を引かれながらお店を後にしました。
それから、一週間。家に帰ると、一枚の手書きで書かれたハガキが届いていました。差出人は、その店。
「このたび4月○日をもちまして閉店いたしました。
15年にわたり、長年のご愛顧ありがとうございました。
また、先日は、暖かいお言葉をかけていただきありがとうございました。」
私は、別に常連だったというわけでもなく、住所もポイントカードに登録するときに書いていただけで、書いていたことさえ初めて思いだしました。
閉店するお店がお客に送っても、何のメリットにもならないし、店の片づけが大変なところ余分な手間もかかるだろうに。送付費用だって、経営が苦しいときに馬鹿になりません。
それでも、最後まで客に対してのホスピタリティを忘れないなんて、飲食店の鏡です。
そんなすばらしいお店がなくなり、おもてなしの心をもった店主が日本を去ってしまったなんて、なんだかちょっと切なくなってしまいました。