「太陽光発電2019年問題」は、対策すれば怖くない!(前編:vol.123) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

太陽光発電の「2019年問題」あるいは「卒FIT」という言葉をよく耳にするようになりました。自宅の屋根などに太陽光発電を設置している方にとっては特に重要ですが、日本で太陽光発電が一気に広がってきたいま、それ以外の方にとっても無関係というわけではありません。

 

2019年3月、認定NPO法人「太陽光発電ネットワーク(PV−Net)」は、都内でこの問題をテーマにしたセミナーを開催しました。今回と次回は、登壇された杉本完蔵さん(太陽光発電協会幹事)と、高柳良大さん(PV−Net副代表)のお話を元に、2019年問題とどのように向き合うかというポイントをお伝えします。

 

 

◆  トピックス

・「2019年問題」とは?

・再契約が必須。気になる価格は?

・売るだけじゃもったいない、自家消費のススメ

・蓄電池ビジネスに注意!

・小さな蓄電池という選択肢も

 

◆「2019年問題」とは?

 

家庭の屋根などに設置している規模の小さな太陽光発電設備が生み出す電力は、まず家庭の電気として使用されます。家庭で使い切れなかった分(余剰電力)は送配電線を通じて電力会社に買取られています。

 

特に2009年11月からは、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が始まりました。これにより、再生可能エネルギーが生み出された電力を優遇された価格で、電力会社に買取ってもらえることになりました。出力10キロワット未満の設備の余剰電力、つまりほとんどは家庭の屋根などに設置されている設備の電気ですが、それについては買取り期間が10年と定められています。

 

そのため、制度が始まった2009年11月に認定を受けた設備は、2019年11月から買取りが終了となります。その後も、順次10年を経過する設備は買い取りが終了になります。なお2019年問題は、FITを卒業するということから、「卒FIT」とも呼ばれています。

 

今後、FITを卒業する太陽光発電が年々増えていく(資料提供:杉本完蔵氏)

 

全国で太陽光発電を設置している家庭は、戸建住宅総計の8%程度(推計)。2019年11月の段階で契約満了になる世帯は約53万軒とされています。契約が切れた家庭は、そのままにしておけば自由契約となり、余った電気を無料で送電線に流すことになってしまいます。つまり買取価格はゼロ円になってしまうのです。そのため、マスメディアなどで「2019年問題」として報道されているので、不安になった方もいるかもしれません。でも適切な対処をすれば、問題ではありません。

住宅への太陽光発電の導入軒数(資料提供:杉本完蔵氏)

 

◆再契約は必須。気になる価格は?

 

契約満了となる方に必ずやってほしいのが、新しい会社との再契約です。これにより価格は大幅に下がりますが、基本的にはいままでと同様、余剰分を買取ってもらうことができるようになります。また、いままで買取っていた大手電力会社以外からも選択することが出来るようになります。では、どんな契約先の候補があるのでしょうか?

 

国は2019年6月末までに大手電力各社に買取価格を出すことを求めているため、各社の価格が出そろのは7月頃です。4月末現在、買取価格を提示している会社もありますが、あわてる必要はありません。7月以降に各社の価格が出そろうのを待ってから、自分に合った電力会社と契約すれば大丈夫です。

 

気になる価格ですが、平均すると1キロワット時あたり7円から10円くらいになると考えられています。価格は、日本卸電力取引所(JEPX)の電力調達価格とほぼ連動すると言われています。JPEXの平均的な価格がキロワット時あたり10円なので、そのあたりの金額を提示する会社が多くなりそうです。

 

FIT制度の買取満了までのスケジュール(資料提供:杉本完蔵氏)

 

2009年に認定された太陽光発電設備では、これまで買取価格がキロワット時あたり48円だったので、大幅な減収となります。とは言え、10年間の自家消費分と売電により、多くの世帯では設置費用については元が取れているはずです。これから先の売電収入は、オマケと考えることもできるでしょう。2019年4月末現在、この後の価格を発表している会社は以下のようになります。

 

・8.5円:昭和シェル石油(九州電力エリアのみ7.5円)

・8円:関西電力、中部電力、シェアリングエネルギー

・7円以上:静岡ガス(詳細は7月以降)

・7円:四国電力

 

なお、スマートテック(新電力)が10円という高価格を提示していますが、あくまで世帯数も期間も限定というキャンペーン価格になっています。今後も、各社が順次発表していきます。大手電力だけでなく、新電力小売会社の価格とも見比べて選んでください。

 

◆売るだけじゃもったいない、自家消費のススメ

 

新しい契約先を探して安い価格で売電すれば、ひとまず太陽光設備とはいまでどおりの付き合いができます。でもそれだけで良いのでしょうか?電力会社に販売する金額は、お伝えしたように7円〜10円程度となります。しかも、価格はいままでのように10年間固定というわけではないので、さらに下がることもあるはずです。そして、電力会社から購入する金額はおよそ20円から30円程度(3段階料金制度)になるので、相対的には売電することのメリットが下がります。そのダメージを少なくする方法として、効率的な自家消費につなげて、使いこなす発想が必要となります。

 

セミナーの様子(左が高柳氏、右が杉本氏)

 

太陽光発電の自家消費率は、一般的にはおよそ30%くらいとされています。意識してその割合を増やすことで、購入する電気を減らすことが可能になります。例えば、オール電化住宅でエコキュートが付いている家庭では、電気料金が安い夜間にお湯を作る設定になっています。それを太陽光発電設備が稼働している昼間にお湯を作るよう設定することで、購入分を減らせるメリットが生まれます。

 

オール電化ではなかったとしても、蓄電池を導入せず、なるべくお金をかけずに自家消費率を増やしたい場合は、発電している時間帯に洗濯や掃除をするように心がけるという方法もあります。もちろん、それにより生活に支障が出てしまえば本末転倒なので、暮らしとのバランスには気をつけましょう。

 

◆蓄電池ビジネスに注意!

 

では、話題の蓄電池の設置はどうでしょうか?ネット通販や訪問販売の業者は、「いまなら補助金がつくのでお買い得です!」と営業トークをかけていますが、気をつけた方が良いでしょう。契約を急がせたり、「蓄電池を設置しないと損をする」という明らかな嘘の情報を流している営業マンもいるようです。

 

蓄電池の価格はここ数年で下がってきてはいますが、家一軒分の電力をまかなおうとすれば、まだまだコストが高くつきます。安いものでも、容量1キロワット時あたり20万円前後なので、仮に容量5キロワット時の蓄電池なら100万円がかかってしまいます(※2019年4月現在の適正価格として)。高柳さんの試算によると、たとえ発電した電気をためて夜間に自家消費したとしても、支払ったコストを回収するには20年以上かかります。

大型蓄電池の導入はくれぐれも慎重に…

 

また、雨の日や曇りの日もあり、実際には毎日充電できるわけではありません。さらに蓄電池の性能が経年劣化することなどを考え合わせれば、費用対効果はさらに悪くなります。蓄電池販売業者は「今ならお買い得」とうたっていますが、実際には根拠が怪しいと考えたほうが良さそうです。

 

◆小さな蓄電池という選択肢も

 

では蓄電池は意味がないのかというと、そうではありません。蓄電池があれば、災害が起きて停電したときにも電気が使えます。その安心料だと思えば、必ずしもコストに見合わなくても良いのではと考える人もいるでしょう。

家一軒分の蓄電池を用意するのは高額な費用がかかります。しかし、非常時の備えはしておきたい、という場合は別の選択肢もあります。蓄電池にはさまざまな容量があるので、例えば5万円前後の蓄電池を持っているだけでも、いざというときに役立ちます。LED照明、スマホやパソコン、あるいは小さな家電の充電などはこれで十分にまかなうことができるでしょう。停電時も、昼間に太陽光発電設備から充電しておけば、夜に活用することが可能です。

 

災害が起きた時、都市インフラの中でもっとも早く復旧するのは電気です。その短い期間をしのぐには、小さな蓄電池で十分と考えることもできます。なお小さな蓄電池であれば、屋根に太陽光が載っていない世帯の方でも、小さな太陽光パネルとつないで充電できるため、一家に一台備えておくことをオススメします。

 

 

ここまでの話をまとめると、以下のようになります。

 

①   認定から10年を迎えた太陽光設備は2019年11月以降、買取契約が満了となる

②   2019年7月以降、各社の価格を比べて再契約する

③   いずれにせよ売電価格は下がるので、自家消費にも活用できるよう工夫する

④   ただし、高額な蓄電池ビジネスには要注意!

⑤   オススメは安価で小型の蓄電池

 

後編では、電気自動車の利用方法や、災害時の活用の仕方など、一歩踏み込んだ太陽光発電との向き合い方についても紹介します。

 

後編はこちら

 

※  買取満了の説明については、太陽光発電協会(JEPA)のホームページも参考にしてください

太陽光発電所ネットワーク(PV−Net)のサイトはこちら

 

◆お知らせ:ご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」公開中!自主上映会も募集しています
 

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」(渡辺智史監督)が全国で公開されています。当リポート筆者の高橋真樹は、この映画にアドバイザーとして関わっています。

詳しい場所と日程は映画のホームページの「劇場情報」、またはFacebookよりご確認ください。また、自主上映会も募集中です。ご希望の方は、ホームページよりお問い合わせください。