真冬のマンゴーづくりが生んだ新発見・「白銀の太陽」とノラワークスジャパン(後編/vol.122) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

真冬の北海道で、しかも自然エネルギーを使って、南国のフルーツであるマンゴーを栽培する「ノラワークスジャパン」の中川裕之さん。常識を覆した取り組みを支えたのは、中川さんの地域への熱い思いでした。後編となる今回は、マンゴーづくり過程でわかった新たな発見についてもご紹介します。

「真冬のマンゴー大作戦」前編はこちら

 

収穫が迫るマンゴー「白銀の太陽」

 

◆トピックス

十勝をフルーツ王国に

・冬には農業ができないという固定観念を変える

・めざすは無駄のない「カスケード農業」

 

◆十勝をフルーツ王国に

 

中川さんたちの苦労が実り、十勝でも立派なマンゴーが栽培できると証明されたことで、それまで「北国でマンゴーなんかできるわけがない」と言っていた人たちも、応援してくれるようになりました。2012年からは本格的な栽培が始まり、クリスマスやお正月の時期にマンゴーが市場に出回ると、贈答用として重宝されるようになりました。その年の12月、ノラワークスがつくった真冬のマンゴー「白銀の太陽」は、百貨店で1個5万円の高値がつき、中川さんたちは自信を深めました。

 

現在はビニールハウスが3棟まで増え、2017年には2000個のマンゴーを育てるまでになりました。とはいえ、中川さんは事業を拡大していくつもりはないと言い切ります。「ハウスはもうこれ以上増やしません。プロジェクトの目的は、冬の北海道で新しい形の農業ができることを証明するためのものです。もちろん、大きくて味や形の良いマンゴーを、安定して作るための模索は今も続けています。でも自分たちが儲けたいからやるのではなく、この事業を元に他の農家さんに続いて欲しいと思っているのです」。

 

マンゴー栽培の工夫を説明する中川裕之さん。ビニールハウスは何重にもなっていて、外の冷気が伝わりにくい構造だ。

 

真冬の北海道で、しかも自然エネルギーでマンゴーを栽培するという実験的な農園や設備をつくるために、4億円にものぼる多額のコストがかかりました。マンゴーが高値で売れても、投資したコストを回収するには長い年月がかかります。

 

最も費用がかかったのは、1億8000万円をかけて作った巨大な雪氷庫です。目先のコストで考えたら、雪氷熱よりも石油を使ったほうがよほど経済的でしょう。しかし中川さんには、はっきりとしたビジョンがありました。

 

それは、地域に新しい生産者を増やすことです。ノラワークスの取り組みが礎になり、十勝でマンゴー農家が増えれば、十勝がマンゴーなど亜熱帯果実の一大産地としてブランドになっていくかもしれません。

 

また、最も栽培が難しいとされるマンゴーを真冬の北海道で作れるのだから、パイナップルやパパイヤなど、他のフルーツを栽培できる可能性も開かれたことになります。

 

一番新しいビニールハウスには、まだ苗の状態のマンゴーが並ぶ。

 

◆冬には農業ができないという固定観念を変える

 

十勝でマンゴーをつくる意義は、それだけではありません。中川さんは、北海道では冬は農業ができないという固定観念を変えていきたいと考えています。

 

「北海道の農業はだいたい3月から10月くらいの間で、冬は働くことができません。その端境期にマンゴーを始めとするフルーツを出すことができれば、冬にも雇用が生まれます。いずれは、補助金に頼らない自立した農業が実現できるかもしれません」。

 

地域の将来を見据えて奮闘する中川さんの熱意は、志のある個人や民間企業、地元の金融機関らを動かし、無担保で4億円の事業資金を調達することにつながりました。融資した金融機関の担当者は「ぜひ十勝の夢を成功させてください!」と伝えてくれたそうです。

 

世界最大規模の雪氷庫に氷を張る

 

「いろいろな人が出資してくれるのはありがたいですね。特に地元の金融機関がすごく期待してくれています。借金を返していくのは簡単ではありませんが、皆さんの期待に応えたいと思っています」(中川さん)。

 

現在、農園を運営しているのは、中川さんともうひとりのスタッフの2名だけ。中川さんの主な収入源は、以前から経営している貸し倉庫業で、マンゴー栽培から収入を得ているわけではありません。しかしこの取り組みで得た設備やノウハウを参考にすれば、冬のフルーツ栽培で収益を得る仕組みをつくることは十分に可能だと考えています。

 

誰もやったことのないプロジェクトを手がける中で、マンゴーづくりのスペシャリストでさえ知らなかった新たな発見もありました。まず、農薬の試用期間を大幅に短縮することができました。南国の宮崎でのマンゴーづくりは、湿気や病害虫と闘うため、長期間にわたり農薬を使わざるをえません。

 

ハウスの中は厳密に温度と湿度の管理がされている

 

一方で北海道のマンゴーづくりは、6月から8月に花が咲き、9月に実がなり、12月初旬から販売が始まります。農薬については、6月までは使いますが、9月以降は虫もいなくなるので、使う必要がありません。また実がなってからは湿気も少なく、病気の心配もほとんどいりません。

 

中川さんが最も驚かされたのが、マンゴーの味の変化でした。南国のハウス栽培では湿度がどうしても高くなりがちですが、北海道は湿度が低いので、マンゴー独特の臭みが消えたのです。また、果肉は繊維質が少なく、普通のマンゴーと違って歯に引っかかりません。老舗の果物販売店からは「これは世界一のマンゴーですよ!」と驚かれたそうです。

 

◆めざすは無駄のない「カスケード農業」

 

味が良く、安全で、クリーンエネルギーにより栽培された「白銀の太陽」は大きな話題になり、さまざまなメディアで紹介されるようになりました。中川さんは言います。「石油で作っていたら、こんなに話題にならなかったかもしれませんね。特に雪は、北海道の僕らにとって敵対するものでしかありませんでした。でもいまは雪が早く降ってくれないかなと、待ち焦がれているような状態なんですよ」。

 

冬はバイオディーゼルによって暖房を行う。今後はさらに太陽熱利用の研究もしたいとのコメントも。

 

中川さんは今後、自然エネルギーをとことん使い尽くす「カスケード農業」を提案していきたいと言います。「雪氷熱も温泉も、エネルギーを段階的に利用するカスケード利用ができます。マンゴー栽培で使った温泉熱は、液体なので少し温度が下がってもまた別の作物の栽培に利用できる。40℃が32℃や20℃になっても栽培できる作物はあるはずです。これからの農業は、環境への負担をかけないよう身近なエネルギーを最後まで無駄にせず、ずっと使い続けられる『カスケード農業』が主流になるべきと考えています」。 

 

暖かい空気をハウス全体にめぐらせる

 

事業をはじめてから8年、多くの人に支えられながら北海道でマンゴーを栽培してきた中川さん。それまで農業をやったことのない彼が、借金までしてマンゴーを作ると言ったとき、家族からはとても心配されました。本人も、「50歳を手前にまさか自分の人生がこんなことになるとは思っても見なかった」と笑います。

 

それでも、中川さんはチャレンジして良かったと言います。「害虫がいなくなるとか湿度の違いで味が変わるといった事実は、やってみて初めてわかったことです。誰かがやらなかったら気がつかないままだったはずです。やはりチャレンジしてみることが大切だと実感しますね」。冬のフルーツ栽培を十勝の新しい産業にしたいと語る中川さんの挑戦は、これからも続きます。

 

「真冬のマンゴー大作戦」前編はこちら

 

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