市民風車として最大のウインドファームが稼働/北海道グリーンファンド(vol.120) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

みなさま、新年明けましておめでとうございます!2019年も全国のユニークなご当地エネルギーや省エネの取り組みなどを積極的に紹介していきたいと思います。

 

さて昨年末に、北海道石狩市に設置された市民風車を訪れてきました。石狩市には、NPO法人「北海道グリーンファンド」と事業会社「市民風力発電」が手がけた市民が関わってつくった風車が複数基建っています。中でも、2018年12月に稼働し始めたばかりの「石狩コミュニティウインドファーム」は、市民風車としては最大の出力となります。

 

北海道グリーンファンドの活動については、全国ご当地エネルギーリポートが始まった当初の2013年に取り上げましたが、それから5年以上が経ち、市民風車の取り組みも徐々にですが増えてきています。これからの自然エネルギー躍進のカギを握ると言われる風力発電!今回は、石狩市の取り組みを中心にお伝えします。

 

厚田市民風車(©北海道グリーンファンド)

 

※参照記事:市民風車のパイオニア〜北海道グリーンファンド(2013年10月)

 

◆トピックス

・市民が参加する風車づくりの20年

・市民風車として最大のウインドファーム・問題は送電線の風車枠

・地域に資する風車として

 

◆  市民が参加する風車づくりの20年

 

北海道グリーンファンドと市民風力発電が現在まで運営管理する風車の数は、北海道や東北を中心に合計で31基、出力にして6万3千キロワットになります(2019年1月時点)。

 

最初に設置された市民風車は、2001年に北海道浜頓別町で設置された「はまかぜちゃん」(出力990キロワット)です。18年前は、大きな後ろ盾のない市民が風車事業を始めるなどということは不可能と考えられていました。当然、金融機関から事業資金の融資を受けるのは困難です。

 

はまかぜちゃん(©北海道グリーンファンド)

 

そこで、全国で初めて市民から幅広く出資を募る「市民出資」という仕組みが立ち上がり、市民風車の建設を呼びかけることになりました。市民の手による自然エネルギー設備の増加を望む声は予想以上に多く、集まった資金は、1億4000万円にものぼりました。

 

こうして建設された「はまかぜちゃん」は、稼働開始から順調に動き続け、2019年3月で18年になります。市民出資をした人たちは、契約の満了を迎え、18年間にわたって毎年行われてきた出資金の償還と利益分配が終了となります。

 

出力990キロワットの風車1基を建てる所から始まった北海道グリーンファンドと市民風力発電の取り組みは、困難を乗り越えながら各地で増えていきました。事業会社として設立した市民風力発電には、専門技術を持ったスタッフが集結し、風力発電の開発・保守管理を一括して担い、地域に根ざしたさまざまなパートナーと協力してエネルギー事業をつくりだしています。

 

今年の秋には、秋田と青森にも新たな風車が運転開始の予定になっています。これらも含めると、運営管理する風車の合計出力はおよそ8万キロワット(80メガワット)の規模になります。

 

20年にわたって市民風車の活動を牽引してきた、北海道グリーンファンド理事長(市民風力発電代表取締役を兼務)の鈴木亨さんは次のように語ります。

 

「近い将来、合計出力で100メガワットをめざしたいと思います。市民の立ち上げた取り組みとしては、それくらいになるとある程度の存在感も出てきますから。小さな規模の地域の取り組みも相変わらず重要ですが、一方でちょっと大きなフレームで見て、私たちのようなコミュニティエネルギーの取り組みが風力発電市場の一翼を担えるところまで行くことの意義は、大きいのではないでしょうか」。

 

◆市民風車として最大のウインドファーム

 

市民風力発電が建設した最新の風車が、石狩湾の工業団地に建つ「石狩コミュニティウインドファーム」です。石狩市の人口はおよそ6万人。札幌市の中心部から車で40分ほどの距離にあり、札幌のベットタウンとしても知られています。

 

2018年末に稼働したばかりの石狩コミュニティウインドファーム

 

2018年12月から本格稼働を始めた風車は7基、合計出力はここだけで2万キロワットあります。1基あたりの出力も3200キロワットと、「はまかぜちゃん」の時代より大型化しています。風車は石狩湾新港企業団地にあり、周囲には工場や事業所などが立ち並びます。

 

自然エネルギー発電所の売電価格を一定程度優遇するFIT(固定価格買取制度)の開始など、事業への理解が進んだ現在では、風車事業に対する金融機関から融資がおりやすくなっています。この7基の風車も、地元の銀行などからの融資で建てられています。しかし、市民参加と地域還元を重視する市民風力発電の方針により、プロジェクト資金の一部に市民出資が入ることになっています。

 

◆ハードルは送電線の「風車枠」

 

それでも資金調達をのぞけば、北海道で風車を建てることが簡単になったわけではありません。石狩コミュニティウインドファームの場合は、環境アセスメントの手続きを始めたのが2012年です。本格的な準備を始めてから、稼働の開始まで実に6年がかかっています。

 

石狩市には、北海道グリーンファンドと市民風力発電が関わって建てた風車が他にも5基あります。石狩コミュニティウインドファームと同じ、石狩湾新港地域で稼働している風車は2005年(2基)、2008年(1基)、そして石狩市厚田区に建設された厚田市民風車(2基)です。これらの風況調査など立地検討をはじめたのは「はまかぜちゃん」が建った2001年からなので、厚田市民風車の実現までには、13年もかかったことになります。

 

美しい海に面する厚田市民風車

 

最大の問題は、北海道電力から送電網(系統)に風力発電の電気を入れる余地(枠)がないと言われてきたことです。不定期で枠の募集はかかるのですが、ある程度の決まった量しか募集されず、その枠をめぐって抽選や入札という形でごく限られた事業者しか事業を行うことができませんでした。

 

◆地域に資する風車として

 

厚田市民風車の2基は、自治体事業の枠に石狩市と共同で応募して枠を取ったものです。石狩市では風車建設にあたり、「環境まちづくり条例」を制定し、厚田市民風車の売電収益の一部は、条例基金に拠出しています。拠出した資金は、植林に活用されるなど地域の環境保全に役立てています。

 

厚田地区の港。岸壁には風車の支援金でイラストが描かれている。

 

また、市への寄付とは別に、風車の建っている厚田区への助成も行っています。石狩市厚田区は、かつては厚田村という独自の自治体でしたが、2005年に石狩市と合併しました。現在の人口はおよそ2000人ほどで、全国の農山漁村と同様、少子高齢化と人口減少が進んでいます。

 

市民風力発電では、市民出資の営業利益を用いて、まちづくりに励む地域の活動に、地元の人たちと協議しながら毎年活動への支援を行っています。これまで、地域の資料館の運営や水彩画展など、厚田への交流人口の増加など、厚田地域を活性化する取り組みを支援してきました。また、コンクリートに囲まれた岸壁を明るく彩る魚介類のイラストや文字を描く漁協の女性部によるプロジェクト資金としても使われています。

 

漁協の女性部による作品。「暗く重い感じのコンクリート壁をなんとかしたい」という声を受けて描かれた

 

北海道グリーンファンド事務局次長の小林ユミさんは「まだまだ小さな支援しかできていませんが、風は地域資源ですから、それを活かして地域活性化に役立ててもらうお手伝いができればいいと思っています」と語りました。

 

厚田市民風車と小林ユミさん

 

風力発電事業をめぐる状況は変わってきたとは言え、ここ数年に日本全体で太陽光発電が増えた割合に比べると、風車の数はほとんど横ばいです。自然エネルギーを市民が関わって増やしていくためには、これからも北海道グリーンファンドと市民風力発電の役割は大きいのではないかと改めて感じました。今回はこんなところで!

 

◆お知らせ:ご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」は、まだまだ上映中!

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」(渡辺智史監督)が今年から全国で公開されています。当リポート筆者の高橋真樹は、この映画にアドバイザーとして関わっています。

詳しい場所と日程は映画のホームページの「劇場情報」、またはFacebookよりご確認ください。また、自主上映会も募集中です。ご希望の方は、ホームページよりお問い合わせください。