第5回:北海道グリーンファンド〜市民風車のパイオニア〜(風力) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー


❒市民の力でつくった風車

 自然エネルギーの各地の取り組みを紹介する「エネ経特派員・高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」第5回です。

 その前に、先日紹介したイベント「中津川THESOLARBUDOKAN2013」に行ってきました!ライブの報告はコチラからご覧ください。

 太陽光の電力だけで実施する初の大規模野外ロックフェスは予想以上に盛り上がりをみせました!この規模のイベントを実施できたのはすごいですね!主催者である佐藤タイジさんとも「太陽のトークセッション」でご一緒してきましたよ。タイジさんの熱い思いなどは、近いうちにこのご当地電力リポートでも紹介できればと思っています。お楽しみに!

 さて今回ご紹介するご当地電力は、2001年に日本初の市民風車を建設した、市民風車のパイオニア、NPO法人北海道グリーンファンドです。

$全国ご当地電力リポート!
(北海道グリーンファンドのロゴマーク)

 北海道グリーンファンドは、1999年に生活クラブ生協・北海道のメンバーが中心になってできたNPOです。よく知られているように、生協は安全な食を生産者とともに開発して共同購入を行うグループです。この生協の有志から、食だけでなくエネルギーも、原発に依存せず選んで使いたいという声があがり、そこで誕生したのが北海道グリーンファンドでした。設立当初から変わらないコンセプトは「市民が参加してクリーンな電力を選べる体制をつくろう」というものです。

 北海道グリーンファンドは「ファンド」という名前が付いていますが、「出資会社」というわけではありません。化石燃料や原子力ではなく、持続可能な未来に向けて投資をしていこうという心意気を示してファンドという言葉が使われています。エネルギー事業を運営するNPOとして、ここが主体となって風車の計画を立てています。また、市民出資や金融機関からの融資を集た資金関係については関連会社の自然エネルギー市民ファンドが担っています。

 北海道グリーンファンドは、1999年には日本初の「グリーン電気料金制度」を開始。また市民参加型の風車建設を呼びかけて、全国の市民から小口の資金を集める「市民出資」を開発します。その資金を含めた形で、2001年に北海道浜頓別町(はまとんべつちょう)に日本初となる市民風車「はまかぜちゃん」(出力990kW)を建設しました。その後も、青森や秋田など各地の市民風車立ち上げを支援するなど、市民参加型の風力発電事業に取り組んできました。

$全国ご当地電力リポート!
(市民風車第一号となった「はまかぜちゃん」:北海道グリーンファンド提供)

 仕組みづくりなどの企画と立ち上げには、ISEP(NPO法人環境エネルギー政策研究所)が全面的に協力。さらに市民が参加する自然エネルギーの普及を全国的に推し進めるため2003年2月に設立された、株式会社自然エネルギー市民ファンドは、ISEPが今も共同で運営しています。


❒日本初の市民出資の仕組みをつくる

 日本の風力のポテンシャルは、北海道や東北地方を中心に非常に高いとされています。しかし、調査や手続きに3年から5年近くの時間がかかり、費用も1基2億円ほどする風車(1号機建設当時)は、市民が建設するにはとてもハードルの高い設備でした。さらに金融に関する法律や、技術的な専門知識も必要になってきます。

 しかし北海道グリーンファンドは、「グリーン電力料金制度」や「市民出資」などといった独自の仕組みを開発して、当時は市民には不可能と考えられていた市民風車の建設を2001年に実施。以降も着実に数を増やしています。

 当初は金融機関からの融資が難しかったこともあり、「一般の人から出資を募ることはできないか」というアイディアを元に、市民からどのように資金を集めることができるのか検討をはじめました。

 そして事業パートナーであるISEPの協力のもと、公認会計士、税理士、弁護士、金融機関、風力事業者が手弁当で参加する「市民風車研究会」という場を設け、何回も会合を重ねることになりました。そして、最終的に匿名組合という仕組みを利用した市民出資という新しいファイナンスモデルを作り上げたのです。

 金融機関でもなく証券会社でもないNPOが、不特定多数の市民から資金を調達するためのこうした新しい資金調達の仕組みは、その後の市民風車の取り組みや太陽光発電事業(おひさま進歩エネルギー、備前グリーンエネルギー)など、各地 の地域主導型の再生可能エネルギー事業に活かされることになりました。

 北海道グリーンファンドは現在、日本での市民風力発電の草分けとして、これまでの経験で得た知識や技術で、それぞれの地域事業をサポートしています。具体的には、北海道のプロジェクトでは、これまではほとんどが北海道グリーンファンドが主体になってきましたが、青森や秋田など他の地域では、地域に根ざした別のグループが主体となり、法律面、金融面、技術面、広告面などでサポートする体制を作り上げています。

全国ご当地電力リポート!
(石狩の市民風車を見学する子どもたち:北海道グリーンファンド提供)

❒新しいタイプの市民風車も登場

 現在、北海道グリーンファンドが関わった風力発電設備は16基。合計出力は25,750kWになります。市民風車の位置関係はコチラから覧ください。

 2001年9月に日本初の市民風車である「はまかぜちゃん」を建てて以降、市民風車は着実に増加してきました。当時は金融機関による融資は検討すら難しかったのですが、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)が施行された2012年後半以降は、銀行からの融資も実績が上がってきています。

 東日本大震災から1年がたった2012年3月には、秋田県に新たに2基の市民風車が誕生しました。これらの風車は、それぞれワタミ株式会社、生活クラブ生協(東京・神奈川・埼玉・千葉)が出資して建設したものです。北海道グリーンファンドは、風車建設のために必要な諸々の枠組みをサポートしました。

 この2基が他の市民風車と異なる点は、つくられた電力を東北電力に売電するのではなく、特定規模電気事業者(PPS)を通じて、両社の各施設に供給する仕組みになっていることです。2013年8月現在はいったんFITを利用して売電していますが、グリーン電力証書による電力のやりとりを通じて、それぞれの施設で活用されています。電力自由化の流れの中で、これらの取り組みは、画期的な試みとして注目されています。

 北海道グリーンファンドは、今後も北海道や東北地域を中心とした風力発電の事業化を進めていく予定です。また、これまでは採算を得られるものが風力発電事業しかありませんでしたが、FITが導入されたことで、太陽光発電や小水力発電などでも事業の可能性が生まれています。北海道グリーンファンドでは、自らもこうした事業を手がけることはもちろん、各地の取り組みを積極的に支援して自然エネルギー設備の導入拡大を計る予定です。
 
 北海道グリーンファンドは、地域での再生可能エネルギー事業の拡大には、地域金融機関の役割が重要だと考えています。そこで市民出資を組み合せながら、金融機関と一緒に勉強、経験を積み重ね、新しいファンドの仕組みなどを作ろうとしています。さらに、事業からの収益を地域の活性化や自立に向けた取り組みに役立てる企画も検討中です。
 
 エネルギーの「かしこい使い方(省エネ)」や、「再エネの導入拡大(市民風車)」を進めてきた北海道グリーンファンドですが、今後はそれらに加えて、「電気を選び、配る(電力小売り)」という分野にもチャレンジしていくとのこと。「電気を選んで暮らしたい」という思いからスタートしたこの事業が、また新しいステップに挑戦をはじめています。

❒キーパーソンからのメッセージ

 まったくのゼロから仕組みを作り上げた一人、北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨さんからは、このようなメッセージをいただきました。

 食とエネルギーは生きるのに欠かせないライフラインです。でも食は選べてもエネルギーは選べない。私たちはそこに風穴を開けたいと思ってやってきました。私も含めて、当初は風車建設に関わったメンバーのほとんどが普通のサラリーマンでした。でも専門家の協力を経て風車を建てる事ができました。その経験を通じて、やる前からあきらめてはいけないということを学びました。
しかし私たちは最初から風車をつくることを目標にしてきたわけではありません。発電設備はあくまでツールにすぎない。大切なのは、地域の自立と活性化です。そのような意味でも、自らも再エネ事業をつくりつつ、これからはファンドのあり方も含めて、全国で起きている地域の取り組みを支援する立場になっていきたいと考えています。

全国ご当地電力リポート!
(北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨さん)

❒感想として~無駄な公共事業との違い

 日本全国には、行政や国のエネルギー機関が大金をかけて建設したのに、今では全く動いていない風車がたくさんあります。これは風の吹かない所に風車を建てたり、台風対策を立てていなかったりと、開発のプロセスで決定的なミスを犯していることが多いせいです。

 どうしてそうなってしまっているのでしょうか?ひとつは、従来の無駄な公共事業と同じように、建てることが目的になってしまっているという面があるようです。事業の開発プロセスには市民の声が反映されず、特定のメーカーしか開発に携われない利権構造になっているケースも多くあります。
 でも、当たり前のことながら自然エネルギーの設備というのは、建ててから15年、20年と動かすわけですから、持続できなければ意味がありません。
 
 それとは対照的に、北海道グリーンファンドが手がけた風車はすべて市民が主体になって建てたものですが、今までのところ故障で止まったままというものは一基もなく、すべて順調に稼働しています。また、集めた市民出資もきちんと採算を合わせて出資者に返却されています。きちんとメンテナンスをすれば、充分に採算がとれることを証明しているわけです。

 動かない自治体の風車と、順調に稼働する市民風車との大きな違いは、地域の人とともに建てたという背景です。事業者は、地域の人や全国の市民から集めた一口10万円や50万円の資金で建てた風車を、きちんと動かす義務があります。出資した側も、単にお金を出すだけではなく、自分がお金を出した風車に注目することになります。小口でお金を集めるのは、事務作業的には大変で手間がかかるものですが、そこに関わった人々の意識を変えていく効果があるという意味では、大きな変化を生み出しているように思います。

 北海道や東北の風車のポテンシャルをさらに活かしていくためには、現在北海道で問題になっている送電網の増強など、国や電力会社が本気で動かなくてはいけないこともありますが、市民風車の活動が、そこにスポットを当てて改善していくきっかけになる可能性があるのではないでしょうか。今回はこんなところで!次回は10月11日に更新する予定です!

※北海道グリーンファンドの活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の最新情報などはこちらのリンクからどうぞ。

NPO法人北海道グリーンファンド

株式会社市民風力発電
2001年に市民風車はまかぜちゃんの事業主体として立ち上げる。以来、各市民風車  
の開発、運営・保守管理を担う専門会社として運営。

株式会社自然エネルギー市民ファンド
2003年に市民風車の建設資金を調達するのにともない立ち上げた、市民出資の組成 
や募集を行なうファンド専門会社。

一般社団法人北海道再生可能エネルギー振興機構
膨大な自然エネルギー資源の宝庫である北海道で、地域主体のエネルギー事業の拡大
と産業育成、雇用促進などを進めるプラットフォーム組織として、約70市町村の道
内自治体と地元企業を中心に運営する会員組織。

株式会社ウェンティ・ジャパン
秋田県で地域が主体となって取り組む風力発電事業、また風力による地場産業の育成  
をはかる推進会社として、地域金融機関、地元企業と共同で設立、運営。