ソーラーシェアリングで農業のエネルギー転換を/千葉エコ・エネルギー・後編(vol.116) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

千葉県を拠点に、ソーラーシェアリングを広げてきた「千葉エコ・エネルギー株式会社」。代表の馬上丈司さんは、千葉大学の研究者から事業者へと転身した異色の方です。馬上さんは、ソーラーシェアリングでどんな未来をめざしているのでしょうか?FITの価格が下る中でこれからの事業をどうするのか、耕作放棄地が増えている農業のあり方をめぐる話など、食とエネルギーに関わるお話をお聞きしました。

 

千葉エコ・エネルギーの馬上丈司さん

 

◆トピックス

・なぜ研究者がソーラーシェアリングをやるのか

・FITから自立した電源に

・農業に担い手の受け皿になる

・非電化地域に電源を届けたい

・ソーラーシェアリング推進連盟を設立

 

◆なぜ研究者がソーラーシェアリングをやるのか?

 

高橋:研究者から起業して、自ら事業を始めた理由は何でしょうか?

 

馬上:ぼくは、自分でやってみることが大事だと考えていました。実践が伴わない研究では、観測者になってしまいますから。きっかけは、2011年3月に原発事故が起きたことです。そのあと自然エネルギーが急速に世の中に広まっていく様子を見て、エネルギーの分野ではこれまで日本が経験したことのないステージに入ったと直感しました。これからは大学で研究だけをしていても世の中の動きがわからないから、実際の事業をサポートして新しい現実を作り出していこうと思ったのです。

 

2012年10月に千葉エコ・エネルギー(以下「千葉エコ」)を起業して、当初は自治体や金融機関などを対象に、自然エネルギー事業のコンサルタントをしていました。そして2014年からは、自らプレーヤーとなって発電事業も手がけるようになりました。

 

高橋:自然エネルギー中で、特にソーラーシェアリング事業に力を入れている理由は何でしょうか?

 

馬上:ぼくの大学での専門は、エネルギー問題と食糧問題です。日本のエネルギー自給率はおよそ8%(一次エネルギー換算)、食料自給率はおよそ40%(カロリーベース)とされています。しかし、もし海外からのエネルギー供給が途絶えてしまえば、トラクターは動かせないし、流通もできない。食料自給率が40%あると思っていても、エネルギーがなければ限りなくゼロに近づいてしまいます。この不安定な状態を変えたい、というのは研究者時代から考えてきたことです。そんなとき、農地で農業を続けながら自然エネルギーを生み出すソーラーシェアリングのアイデアを知り、「これはすごい!」と感じました。 

 

(提供:千葉エコ・エネルギー)

 

化石燃料によるエネルギーがなければ回らない農業は、環境負荷がすごく高い産業です。でもソーラーシェアリングは、それを根底から変える可能性がある。いまはソーラーシェアリングの電気を全量売電していますが、これからは農地で生まれた電気でハウス栽培のエネルギーをまかなったり、EVトラクターを動かせたりするようになるはずです。ぼくは、「農業を化石燃料から解放する」と宣言していますが、その転換ができれば、農業の持続可能性が高まります。よく「なぜ研究者が発電ビジネスを?」と聞かれるのですが、ぼくの中ではぜんぜん別のことをやっている意識はなくて、大学でしていた研究を現場で実践しているにすぎません。

 

◆FITから自立した電源に

 

高橋:「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)」で売電して、その収益で農地を活性化というのは最終目的ではなく、その先に農業そのものの転換を考えているということでしょうか。

 

馬上:その通りです。だからFITの買取価格が下がっても、慌てる必要はないと思っています。もちろん、ソーラーシェアリングは農地の保全と一体の事業なので、関係省庁には、売電収入だけを目的にした野立ての太陽光(地面に設置する設備)とは異なる扱いをして欲しいと考えています。これについては、ソーラーシェアリング推進連盟(下記参照)でもアピールしていくつもりです。

 

匝瑳市のメガソーラーシェアリング設備(空撮/提供:千葉エコ・エネルギー)

 

ただぼく個人としては、近い将来にFITに頼らなくても、事業として自立できるのではないかと考えています。いまお話した農業のエネルギー転換だけでなく、電気を売るにしても自然エネルギーの環境価値を高く買ってもらう可能性は十分にあります。たとえば、企業などで使用するエネルギーを100%自然エネルギーにすることをめざす「RE100」というネットワークが急速に広がっています。アスクルやイオン、マルイといった大手も「RE100」の宣言をしました。 そのような企業にとっては、地域の農業と共生するソーラーシェアリングの電気は、山林を開発した太陽光発電所で作った電気よりも価値が高くなります。

 

そういう中で、いまは原発か石炭か、自然エネルギーか、という分け方でどこから電気を買っていると思います。でもこれからは、自然エネルギーの中でも単に「太陽光の電気」というだけではなく「どこで作ったどんな太陽光の電気か」ということに価値がでてくる。電気のトレーサビリティをはっきりさせる「発電源証明」をつけることが一般化すれば、それが可能になります。そのとき、農地を守りながら発電するソーラーシェアリングの電気は、もっと価値が高くなるはずです。そのような意味で、いつまでもFITで売っているだけだとその価値を活かしきれなくなり、ビジネスにとってはむしろリスクになる可能性さえあります。

 

◆  農業の担い手の受け皿に

 

高橋:千葉エコでは、発電事業だけでなく農業にもチャレンジされていますが、実際に土に触れてどのように感じましたか?

 

馬上:自分で土をいじるのは嫌いではありません。ただ、トラクターの運転は最初は難しく感じました。うちのスタッフには農業学校に通っているメンバーがいるので、彼に指導を受けてやっています。自分も携わってわかってきたのは「農業は科学」ということです。いつに種を蒔いたらいつごろ収穫できて、市場にいくらで出るのか、といったことが定量化して数字でわかるというのが面白い。

 

みずからトラクターを運転する(提供:千葉エコ・エネルギー)

 

もちろん、毎年の天候の変化や気候変動の影響などで予定通り行かないこともあります。しかし、データを取って種を蒔く時期をずらすとか、ある程度のシミュレーションができるので、対応は可能になるでしょう。いまは10日先の天気予報の的中率が50%くらいですが、これが進化すれば1ヶ月先、3ヶ月先などをほぼ予測ができるようになってくると思います。

 

高橋:ソーラーシェアリングの課題のひとつとして、農家の高齢化があげられています。どのように農業者を増やしていけばよいでしょうか?

 

馬上:確かに、うちの畑の周囲の農家はほとんどが高齢の農家さんです。体力的にやりきれないということで、千葉エコに土地を貸していただきました。ある意味で、ぼくらのような若手が農業をやるチャンスは、そこにあります。農業をやりたい人は潜在的にすごく多いのですが、いままではその受け皿がなかった。これからは、ぼくらのような新参者が入ることで、若い人と農家をつなげる、受け皿の役割を果たすことができたらと考えています。匝瑳市の農場などですでに始めている若手の農業者との協力作業(前回の記事参照)も、広げていきたいですね。

 

全国で、農地をつぶして野立ての太陽光発電を設置する件数がものすごく増えています。面積にすると、およそ7000ヘクタール(70平方キロ)というとんでもない広さです。田んぼに換算したら、お米3万5千トン分、サツマイモなら14万トン分が生産できるだけの農地が消えてしまいました。こんなことでいいはずがありません。発電は、農地を活かしながらできることを知ってもらえればと思います。

 

◆  非電化地域に電源を

 

高橋:ソーラーシェアリングをめぐって、今後はどのようなことをやっていきたいですか?

 

馬上:3つあります。ひとつは、これまで千葉県で培ってきたソーラーシェアリングのモデルを全国に広げていくことです。自分たちの実践例のほとんどが千葉にあるので、違う県でも盛んにしていきたい。また畑より水田の方が、より耕作放棄の状況が悪いので、水田農業地帯をソーラーシェアリングで救いたいと考えています。

 

千葉エコが運営する大木戸アグリ・エナジー1号機

 

その次は、先程もお話した農業の脱化石燃料化です。これは、太陽光発電だけではなく、バイオマスなど他の自然エネルギー源とも連動する必要があります。千葉エコでは「アグリ・エナジープロジェクト」と名付けていて、ソーラーシェアリングがFITから自立する意味でも大切になってきます。

 

3つ目が、海外の非電化地域への輸出です。アフリカや中南米などの農村では消費電力が少ないので、ソーラーシェアリングくらいの電源でも、十分に集落の電源をまかなうことができます。農地の上でやれば、土地をつぶす必要もありませんし、日射の強い地域では作物を守ることもできます。すでにこうした地域に、小さな太陽光パネルを届けるプロジェクトなどはありますが、集落全体に電気を届けることも、ソーラーシェアリングを使えばそれほど困難ではありません。  

                                                         

◆ソーラーシェアリング推進連盟を設立

 

高橋:最後に、2018年4月にソーラーシェアリング推進連盟が設立されました。馬上さんはその代表理事に就いていますが、連盟の役割は何でしょうか?

 

馬上:ソーラーシェアリング推進連盟の運営事務局は、私たち千葉エコ・エネルギーが担っています。ソーラーシェアリングについては、まだまだ実践者が少なく、情報も散逸しています。推進連盟の役割は、そうした情報にまとめてアクセスできる場をつくり、必要に応じてつなげていくことです。それによって、業界全体が活性化したり化学反応が起きたりすることもあるはずです。これから、質と量の両面でソーラーシェアリングの普及を加速していくための推進力になれればと考えています。もちろん、農家や実践者の現場の声を実際の政治に反映させるための政策提言も行っていくつもりです。

 

 

3人の元首相もソーラーシェアリングに注目。左から菅直人氏、小泉純一郎氏、細川護煕氏(提供:千葉エコ・エネルギー)

 

農地をつぶしてまでつくったり、山林を大規模に開発したりする野立ての太陽光は、地域に存在する理由がわからなくなっています。ぼくは5年間の取り組みを通じて、ソーラーシェアリングこそ地域と結びついて、「エネルギーと農業」という2つの大きな問題を解決する方法だと確信しています。

 

高橋:いよいよこれから、新しい展開に入っていきそうですね。これからもソーラーシェアリングの行方を取り上げていこうと思います。どうもありがとうございました。

 

「千葉エコ・エネルギー」の記事前半はこちら

小田原のソーラーシェアリングの記事はこちら

 

◆お知らせ:映画「おだやかな革命」上映情報!

 

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」が全国で公開中です。(当リポート筆者の高橋真樹は、この映画のアドバイザーとして関わっています)

 

詳しい場所と日程は映画のホームページから上映情報をクリックしてご確認ください。